Vol.89 組織としての競争力を高めたい
Contents
今回のご相談内容
組織としての競争力を高めたい。
石川からのご回答
「組織」についてずっと考えてきました。組織のパフォーマンスを高めることを考えていったときに、組織に属する個々人のパフォーマンスが高まることの必要性を感じています。
よく言う話ですが、例えば、サッカー日本代表が強くなる、というときに「選手、個々人の成長が必須である」ということですね。
実際、日本人選手は、ヨーロッパのチームに所属する選手も増えて、個々人の成長という意味では、Jリーグが生まれた約30年前と比較すると、伸びてきているのかなと思います。
個々人の成長
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組織としての競争力
こういう因果関係があるだろうということです。
個人が成長するために大事な要素
そこで、個人の成長に注目すると、個人が成長するために大切な要素として「内発的動機」「個性の発揮」といったことが出てきます。内発的動機の重要性についてはダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」に詳しく、個性の重要性については、マーカス・バッキンガムの「さあ才能に目覚めよう」に詳述されています。
内発的動機というのは、簡単に言ってしまえば、本人が「そうしたい」と思っているということです。
個性については「じっくり準備をしてから臨むタイプ」もいれば「とりあえず始めてみて、やりながら学習するタイプ」もいる、というようなことです。
社員が、自分自身のパフォーマンスを高めるために、自腹でコーチを雇うこともあります。
そうしてコーチから「本当に実現したいことは何ですか?」「本当に充実感を感じるのはどういうときですか?」などと、自身の内発的動機や個性について問いかけをされます。
そして、自分自身の内発的動機が整理されて「自分はこれを実現したいんだ!」とハッキリし、すごくエネルギッシュに頑張れるようになり、成果も出せるようになる、ということが起こったりします。
ビジネスでよく問題となること
しかし、ここで問題となってくるのが「出してほしい成果」について、組織と個人でベクトルがズレることがあるということです。
例えば、内発的動機や個性が整理された個人が「自分は新規営業が好きで、得意だ!」「どんどん新規営業をしていきたい!」となっていたときに、会社としては「今は、新規営業は止めて、既存顧客の満足度向上にリソースを振り向ける時期だ」と判断しているといったことはありえます。
経営者や、評価者にとっては「経営方針に沿った貢献をしているかどうかで、社員を評価する」ということを行います。それによってベクトルを揃えようとするわけです。
しかし問題なのは、評価などによる外発的動機づけで人を動かそうとすれば、個々人のパフォーマンスが低下してしまうことがあるわけです。
「もともと、既存顧客に丁寧にサービスを提供するのがしたいし、得意だ」というA社員にとっては、内発的動機や個性を阻害されることなく、パフォーマンスを発揮できます。
しかし「自分は新規営業が好きで、得意だ!」「どんどん新規営業をしていきたい!」というB社員にとっては、パフォーマンスを発揮しにくくなるわけです。
この問題にどう対処するのか。
これが、組織マネジメントの重要な部分であろうと思います。
これからのマネジメントの肝
これまでの基本的なマネジメントでは「外発的動機付けによってコントロールする」ということが主流でした。社員の意志や個性ということよりも、経営判断や経営方針が重視されるということです。
これも一つの方法でしょう。
しかし問題なのは「外発的動機付け」の限界やデメリットがあるということです。外発的動機付けでは、本質的な積極性や能動性、創造性といったことを期待することが難しく、また動機づけていくために多大な労力が必要となります。
P.F.ドラッカーはMBO=目標による管理ということを提唱しましたが、これはまさに「会社が社員にして欲しいこと(目標)」と、「社員が達成したいこと(目標)」とをすり合わせる、目標のすり合わせを双方向から行うことで、会社と社員が建設的な関係で仕事ができるということを提唱していたものでした。
近年「エンゲージメント」というキーワードがよく使われるようになりましたが、このことを本質的に最初に言い出したのはドラッカーかもしれません。
「エンゲージメント」という言葉は、エンゲージメント・リング、つまり婚約指輪というところで使われるように、辞書を引くと、婚約、などの意味が出てきます。約束、契約、雇用契約といったことも、意味に含まれる英単語です。
一つ面白いのは「(歯車などの)かみ合い」という意味も持っているのです。
歯車と歯車が上手くかみ合うと、スムースに動きますよね。そのような状態が「エンゲージメントが高い」というような状態だろうと思います。
また、婚約や約束という意味からすると、エンゲージメントというのはもともとは対等な関係をイメージしています。主従関係ではないのです。この辺りのニュアンスを、どう捉えるかということ自体も、企業の価値観や文化に現れてくるところだろうと思います。
次回以降で、このエンゲージメントというものと、その高め方について、より詳しく見ていこうと思います。
[Vo89. 2021/09/01配信号、執筆:石川英明]