組織開発 用語辞典:目標設定
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目標設定とは
目標設定とは、夢やビジョンなどに対して、それを達成するために具体的な目標やゴールを設定することです。
特に、ビジネスの世界では、目標が設定されていない、という状況はあまりないだろうと思います。出すべき仕事の成果、目標が設定されていて、それを達成するために日々仕事を頑張る・・・という構造の中で仕事をしていることがほとんどです。
私はキャリアデザイン研修の講師などもやってきましたので「個人としての目標設定」にも多く関わってきました。長期のライフプランを考えて、それに伴ってキャリアビジョンを描いて・・・・というようこともたくさんご支援してきました。
社会的に見ても「目標を設定し、それを達成する」という思考パタンは隅々まで行き渡っているようにも見えます。オリンピック選手が「次の大会で絶対メダルを取る!」といったことも、目標達成の思考パタンですし、市長が「私の市政においてはこれを実現する!」と公約を掲げることも、目標達成の思考パタンです。
しかし、本当に目標設定は必要なのか?必要なのだとしたら、なぜ必要なのか?
まず、そもそもその根っこの部分から考え、解説していきたいと思います。
ビジネスにおける目標設定の役割
なぜ、目標を設定する必要があるのでしょうか?
目標ではなく「ノルマ」が設定されるのは理由は明確です。「利益1億円を出す必要がある」「そのために各部署で2500万円ずつ利益を出す必要がある」「一人当たり500万円ずつ利益を出してください」・・・とノルマが設定されます。
ノルマへの貢献度が高い人材には「相対的に高い報酬」を支払い、ノルマへの貢献度が低い人材には「相対的に低い報酬」を支払う・・・・この外的動機付けを利用して「利益1億円を出す」という組織の目標を達成しようとする、ということになります。
なぜ組織として「利益1億円を出す」という目標を設定する必要があるのかについては、後述しますが、ここでは触れません。
ノルマは典型的な外的動機付けで、アメとムチによって人間を動かそうとするものです。ノルマは、個人にとっては「自分で設定する」ものではなく「組織から与えられる」ものです。組織の目標達成がまず重要であり、その目標達成のための責任分担、役割分担を細分化していったものがノルマということになります。
しかし、「ノルマ」と「目標」とはニュアンスが違います。ここではあえて分かりやすく極端に整理してみたいと思います。
ノルマ:外から与えられるもの
目標:自分自身が主体的に設定するもの
・・・こう整理してみると「社内で目標と呼んでいるモノ」の多くの部分が、実はノルマではないか・・・という疑問も湧いてくるかもしれません。
ここでは「目標」に絞って、論を進めていきます。
目標は意味をもたらす
個人が主体的に設定するものとしての「目標」は、では必要なのでしょうか?
スポーツ選手が「メダルを取る!」と目標を掲げたり、受験生が「●●校に合格する!」と目標を掲げたりするのは、まさに、ノルマではなく、目標です。目標の大切な効果というのは「意味をもたらす」というところにあると言っていいと思います。
例えば、辛い筋トレを頑張っているときに「もうやめたい」「何のために頑張ってるんだっけ?」となったときに「そうだ!自分はメダルを取りたいんだ!”だから”頑張っているんだ!」となる・・・というものです。
目標を思い出すと、今努力していることの理由(”だから”)や意味が分かる。それで力が湧いてくる。モチベーションが喚起される。これが目標を設定する一つの価値だろうと思います。
穴掘り囚人の話や、レンガ積み職人の話は、他で書いているのでここでは割愛しますが、「意味が感じられないもの」をやることは、人間にとってとても苦痛なことです。
目標は、やっていることに、意味をもたらしてくれる。だから、目標設定をする価値がある。これは目標設定の一つの側面だと思います。
主観の重要性
逆に言えば「意味をもたらしてくれない」のであれば、目標として機能していないということになります。自分自身にとって「意味が感じられる」かどうか、その主観的な要素が、目標設定においては非常に重要だということになります。
目標設定では「意味」を「感じられる」ことが重要です。
例えば「今期売上1000万円を達成する」というものを掲げたとします。
これが、単なるノルマとなるのか、その個人として「目標」として機能するのかどうかは、この「意味」が「感じられる」かどうかにかかっています。
「今期売上1000万円を達成する」ことで、例えば
- 成長を実感できる、成長を実感出来たら嬉しい
- 周囲から賞賛、承認される。それは嬉しい。
- 達成したことによって、自信がつく。
- 出世のチャンスを掴んで、もっとやりたいことができるようになる。ワクワクする。
といったことを、”本人が”イメージをできていたとしたら、それは目標として機能しているということになります。
しかし「今期売上1000万円を達成する」ことが
- なんでこんな無理な数字を押し付けてくるんだよ
- どうせ達成したところで給料も大して上がらないし
というような捉え方になっているとしたら、これは目標ではなく質の低いノルマにしかなっていないということになります。ですから、目標設定においては「一人一人の主観や気持ち」といったことが極めて重要になるということです。
目標設定のタイプ:5タイプ
「会社」の中で、多くの目標設定が「1年単位」で行われてきました。これは、法律上、税務上、会計単位が1年であるから・・・ということが理由です。
そもそもビジネス環境的に「1年でいいのか」という話はあります。「ビジネス環境の変化が激しいのだから、もっと短期的サイクルで目標設定する必要がある」とか「環境変化に惑わされず、ずっと掲げていられる長期的な目標を設定する必要がある」とか、そういった観点もあります。
ここでは、上述してきた「一人一人の主観や気持ち」といった面にフォーカスして考えてみたいと思います。
5タイプという考え方があります。これは、論文や書籍として世に出ているといったレベルのものではなく、知人から個人的に教わったものですが、余りにも本質的でかつ使い勝手の良いものなので、機会があればよくご紹介させていただいています。
5タイプは、どういうものかというと「どうやら、人間は、目標設定する時間軸に、個性があるようだ」という仮説です。
5タイプでは以下の4つのタイプを基礎タイプとして持っています。(4つのタイプを統合した5つ目のタイプも存在するということで、5タイプと呼んでいます)
未来型:長期(30年後など)の目標をハッキリと設定できる。目標からやるべきことを逆算して計画できる。
前進型:中短期(1年後、半年後など)の目標を設定できる。時間が経つと(例えば、1ヶ月経つと)目標自体が更新される。
現在型:先々の目標を持つことができない。「今大事にしたいことを、大事にする」「今日頑張りたいことを、今日頑張る」
後進型:長期(30年後など)の目標を抽象的に設定できる。行動計画は立てず「やってきたことを振り返って」意味を見出す。
この5タイプは、Strength Finderのように大手調査会社がデータを収集し書籍を出版し・・・といったレベルのものではないものの、経験的には、非常に効果的、実用的な考えであり、大変重宝しています。
目標の設定が「本人がやる気が湧く」「本人が頑張る力が漲る」ということに価値があるのだとしたら、そうなっていなければ意味がありませんし、そうなっているのだとしたら意味があるということになります。
上司が部下に一律に「5年後の目標を設定してプレゼンしなさい」と指示を出したとします。分かりやすくデフォルメして言うと、
未来型は、5年後を超えた10年後、30年後の目標もプレゼンし、目標に沿った計画もプレゼンしてくるでしょう。その内容も素晴らしいものがあります。
前進型は、5年後の目標をプレゼンしてくるでしょう。本人が一番イキイキとプレゼンをする場面は「それで、1年後にはこれを達成していたいんです」といったくらいの時間軸のものになるでしょう。
現在型は、5年後の目標をプレゼンしてくるでしょうが、気持ちが乗っているようには見えずに「やる気がないのかな?」と見えるでしょう。しかし、日々の業務について責任感がないとか、集中力がないというわけではなく、その分とのギャップが不思議に思えるでしょう。
後進型は、「すみません、5年後は分かりませんが、50年後には世界平和を実現していたいと思います」というように、長期の、抽象的な目標をプレゼンしてくるでしょう。計画もないため「やる気ないのかな?」と見えるでしょう。
・・・というようなことが起きます。
しかし、これは「5年後の目標」と、時間軸を一律で与えてしまったがゆえに起こる問題なのです。
例えばもし、現在型に「あなたが大切にしている価値観は?」「どんなことを意識して、仕事の成果を積み上げていきたい?」などと問いかけたなら、イキイキと答えてくれる可能性はぐっと高まりますし「ああ、やる気のある人材だな」と感じられるでしょう。
もし「目標設定」が「一人一人のやる気が高まる」とか「一人一人に意味をもたらす」ことが大事なのだとしたら「本人にとって適切な時間軸で」目標設定をする、ということは考えなければなりません。
会社として、組織として「1年単位のノルマ」は設定するにはしても、それだけで効果的な目標設定をすることは難しいため「個人の側から見た効果的な目標設定」という横糸も通すことで、バランスの取れた目標設定をしていくことができるだろうと考えます。
参考
書籍
7つの習慣-成功には原則があった! (日本語)
著:スティーブン・R. コヴィー、原著:ジェームス スキナー、訳:川西 茂 1996年 キングベアー出版
ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則
著:ジム・コリンズ、訳:山岡洋一 1995年 日経BP社