組織開発 用語辞典:ファシリテーション
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ファシリテーション(Facilitation)とは
ファシリテーションとは、会議などのn対nの場で人と人のコミュニケーションを支援する一連の行為です。語源は、facilitate(促進する)から。
ファシリテーターは、会議やワークショップなど話し合いの場において、参加者の意見や想いを引き出したり、話の流れや論点を整理したりして、必要に応じて合意形成や相互理解が進んでいくことを支援します。
広義では、会社や組織の社員やメンバーにとって「素晴らしい会社だ」「いい会社だ」となるように支援する一連の行為を指します。
話し合いの場面だけではなく、プロジェクトなど組織的活動全体が必要に応じて活発化したり深まったり、スムーズにいくように働きかけることもファシリテーションと言う場合があります。
会社組織におけるファシリテーションの意味や役割とは
「会議の質」というものは、会社の質、経営の質に直結する要素です。会議の質が高い会社は、質高く業務を進めていくことができますし、会議の質が低い会社は、業務を円滑に進めていくことすらままならないということがあります。
この「会議の質」というものは、そう簡単には上がりません。会社全体の総合力、実力というものが出てくるのがこの「会議の質」です。
この会議の質を高めようとするのが、会社における「ファシリテーション」です。
ちなみに、会議の質は「上司・部下の信頼関係」「会議参加者の論理的思考力」「会議参加者の発信力・傾聴力」「フレームワークの活用力」・・・・などなどによって構成されていますが、これらを補助したり、底上げしようとしたりすることが会社におけるファシリテーションと言っていいでしょう。
例えば「口頭だけで話をしていて、話が錯綜する。何度も同じ話が繰り返される」といった状況があったりします。
そういう場合には「フレームワークの活用力」といった要素が、状況を打開してくれます。一番シンプルにホワイトボードに「メリット/デメリット」と書き出していくだけでも、かなり錯綜や無駄な繰り返しを減らすことができます。
また「声の大きい人ばかり発言する」「参加者の納得感が低い」といった状況もあったりします。こういった場合に、付箋紙を活用しながら、参加者が平等に発言しやすい状況をつくる、といった解決策もあります。
これらのことは全て「ファシリテーション」という領域の技術です。
ファシリテーターに求められる技術やスキル
事前に「場」の設計をする技術
いいファシリテーションのためには、当日の司会進行だけではなく、事前の準備が欠かせません。私たちはファシリテーションのための事前準備のことを「場の設計」と呼んでいます。
ファシリテーションというと、会議している最中の司会進行の技術をイメージされる方も多いかもしれませんが、事前設計が甘かったものを当日のファシリテーションの技術だけでカバーするのには限界があり、私たちは事前設計の時点で「当日の場の質」が7~8割決まってしまうと考えています。
以下に、場の設計をするための3つのステップをご紹介します。
参加者の状態を想像する
ひとつめは当日「場」に参加するメンバーを確認し、参加者それぞれのニーズや現在置かれている状況を想像することです。
特に会社組織は、役職や年次、上司部下の関係や部署の違いなど、参加者間でさまざまな関係性があります。そういった関係性や構造は、人の発言や振る舞いにどうしても影響を及ぼしています。
既にある関係性を無視して、「この場では上下関係を気にせず話してください」「役職に捉われず話し合いましょう」といっても難しいのです。いかにその影響を小さくするか、もしくは影響を受けている前提でどう話し合うのかを考える必要があります。
(詳しくは、心理的安全性の記事等も参考にしてください)
また、参加者のモチベーションや知識もそれぞれ異なるケースが多いです。「自分がどうしてもこの場に参加したくて」という人もいれば、「ほぼ業務命令で仕方なく参加している」人もいるでしょう。
場に対して意欲的な人が多い場であればあまり問題ありませんが、「この場をやる意味がよくわかっていない人」もいる場合、当然アプローチを工夫していく必要があります。
(さらに掘り下げていくと、意欲のある人が多数なのか/数名なのか、知識がないだけなのか、やる気があるのは上司なのか/部下なのかなどによって、その場で起きることが変わるということは、イメージしていただけるのではないかと思います。)
他にも観点はいろいろありますが、このように参加者はまた参加者同士の関係性や参加者が今どういう状況に置かれているかを事前に想像しておくことは、当日のファシリテーションの質を高める重要なポイントになります。
ファシリテーターが、当日に参加者の方と初めてお会いする場合、どうしても「想像する」の難易度はあがります。
この場合も、事前にわかっている情報から、自分のこれまでの経験や知識を踏まえ、「このくらいの感覚の人たちが多いだろうか?」「こういう背景を持っているのではないか?」と想像していき、「このあたりに問題意識があるだろうな」「このあたりで困っているかな」という仮説をたてた上で、場の設計していきます。事前に聞ける情報は、可能な範囲でしっかり確認しておくことが重要です。
補足
扱うテーマにもよりますが、参加者同士が当日初めて会う人たちで、「この場に参加したい!」と自発的に参加している場は前提としてファシリテーションの難易度が低く、むしろ職場のようによく知っている人同士の場でファシリテーションをする方が難しい場合が多いです。
ゴールを設定する
次に、先ほど想像した参加者の状態を踏まえ、「自分を含め、今回の参加者が時間を共に過ごす」ときに、どういう時間になるとよいかを考え、当日の時間のゴールを設定します。
ゴールとは、この時間で「結論を出す」のか、「相互理解を深める」のか、「議論を深める」のか、などです。
例えば、この場の発案者としては「この議題に対してちゃんと結論を出したい」と思っている。ファシリテーターの私としては、「1回で結論はでないだろうな」と思っている。他の参加者としては、そもそも「勝手に決めてくれ」と思っている。
そのような状況が想像されるときに、適切なゴールはどのあたりだろうか。どのラインが落としどころかということを総合的に検討して決定します。
時間の組み立てをする
設定したゴールに向かうために、(限られた時間の中での)最善の時間の過ごし方は何かを考えます。
- インプット(講義)とワークの割合
- 実施する順番
- 各ワークの時間配分
- 対話やワークの1組の人数
- どんな問いにするか(ピンポイントで設定するのか/抽象度が高い問いにするのか/自分たちで出してもらうのか等)
- 書くのか、喋るのか
などの観点で、ポイント1で想像した参加者の状況を踏まえ、その参加者たちが設定したゴールにいけるように時間を組み立てていきます。
基本一方的にレクチャーをするスキル研修などでは、かっちりタイムテーブルを決めて計画通りに実施することも多いですが、いいファシリテーションという意味では、1つの完璧な解(計画)を用意するのではなく、当日の様子にあわせて柔軟な対応ができるように、いくつかのパターン(展開)を準備ができているほうが望ましいでしょう。
当日のファシリテーションの技術
次に、当日のファシリテーションで気を付けるべき点をご紹介します。
今日のゴールと参加者の状態の確認
当日は、始めに今日の時間のゴールをすり合わせることと、参加者の状態が自分の脳内シミュレーションとどのくらいあっているか(またずれているか)を確認することをお勧めします。
ゴールについては、「本日のゴールはXXXでいこうと思います」とファシリテーターから提案する場合もあれば、参加者に今日の時間が終わったときに期待するゴールを挙げてもらい、それぞれの意見を参加者同士が聞き合った上で、落としどころを見つけすり合わせる場合もあります。
どちらにせよ、始めってから、また場が終わったとき、「結論を出したいと思っていたのに出なかった」「決める段階までいかなくてよくて、今日は相互理解を深める方が大事だと思っていたのに全然いい対話ができる雰囲気じゃない」等と、参加者が集中できない、話し合いの内容以外のところで不満に感じることがないように、ゴールを最初に共有しておくことには意味があります。
また、冒頭でチェックインなどを行うと(参加者に今の気持ちなどを発言してもらうと)、その様子を観察することで参加者に関する情報が増えます。
事前にしていたシミュレーションをもとに、「想像していたりも、緊張していて場が固いな」「考えていたよりも、心理的安全性が高いな」といったことがわかったら、「ワークはいきなり大人数でやらずにペアで話してもらおう」「このテーマをいきなり扱うのは難しそうだからこっちのパターンでいこう」などと、できる範囲で微調整を行いながら進めることで、より質を上げることができます。
参加者の顕在意識と潜在意識
例えば参加者が「今日のこの時間楽しみにしています!」と言葉では前向きな発言をしていても、「表面的な発言で本音ではないんだろうな」「そう言っておけばいいという感じで、むしろ感じたり考えたりする意欲が低いんだろうな」と、ファシリテーターとしては感じる、ということがあります。
本人が(本音では話していないと)自覚した上でそのように振るまっているのか、自覚していないのかはわかりませんが、ファシリテーターは顕在的なやりとりだけではなく、参加者の潜在意識の情報も拾いながらファシリテーションを行うことが大切です。
これは、ファシリテーションに限らず、コーチングやカウンセリングとも通じる話なので、このポイントを深めたい方はコーチングやカウンセリングの技術や心得から勉強していただくのもお勧めです。
インストラクションでどこまで喋るか、黙るか
参加者の顕在意識と潜在意識で出した例のように、例えば「参加者が本音で話していないな」という状況がわかっていたとします。
でも、この場としては本音も出てこないといい場にならないなといったときに、ただ「では、次は●●を話しましょう」と伝えただけでは、本音が出ないまま浅い対話が続けられ、この時間が終わってしまう可能性があります。
こういうときには、インストラクションで工夫をします。
今回の場合なら、例えば「言いにくいことなどもあると思うんですけど、今回は時間をとってやっているので、本当に話し合いたいことや実は課題に思っているけど普段はなかなか言えないこととか。今更これは聞けないけど、本当は●●は何のためにやっているんですかとか、そういうのも出してくださいね」と、インストラクションを強めに行ったりします。
他にも、「こういうのを出すのは勇気がいると思うんですけど、今回は聞く方も馬鹿にしたりせずに、そういうところが引っかかっていたんだねと発見するみたいなことを大事にしてくださいね」など、本音が出しやすくなるようなインストラクションを加えたりすることも効果的です。
ここで気を付けたいことは、何でもただ長く細かくインストラクションをすればいいというわけではないことです。
ファシリテーターのインストラクションは場への介入であり、インストラクションによって参加者の視野や思考の幅を狭めたり、誘導してしまうことも起こります。
私たちは、「できればファシリテーターがひとことも話さなくても、参加者たちが今回のゴールに向かって適宜合意形成や相互理解が進んでいくのが望ましい」が、そうはならないところ、足りないところを必要に応じて支援する存在がファシリテーターの役割と考えています。
なので、判断基準としては、基本的には必要最低限のインストラクションでコミュニケーションが進むように意識しています。
今回ご紹介した以外にも、細かいスキルや技術はたくさんあります。より深く知りたい方には、手前味噌で恐縮ですが弊社講座などで学んでいただくこともできます。セミナーなどの最新情報をこちらでご確認いただくか、ご興味のある方は是非お気軽にお問い合わせください。
ファシリテーションに関するよくある疑問やお悩み
- 参加者間の参加意欲の違いや温度感の違い、知識レベルの違いにはどう対処したらいいのでしょうか。高い層と低い層、どちらにあわせてファシリテーションすればいいでしょうか。
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参加者の間であまりにもモチベーションや知識レベルに差がある場合、そもそもどの人に参加してもらって、どの人には参加してもらわないか、場の目的にあわせて参加者の選定をした方がいいケースはあります。
参加者を集う時点で、「こういう主旨でやるので参加したいと思う人は参加してください」というのと、「必ず参加してください」という場ではそれだけで質感が異なってきます。後者でやらなければいけないケースでは、参加者にあわせて場のゴールの方を見直す必要もあるかもしれません。
- 参加者同士でコンフリクト(意見の対立)が生じたとき、ファシリテーターはどうすればいいでしょうか。
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まず、対立は「悪いこと」ではなく、Talking NiceからTalking Toughへ移行できていることは素晴らしいことであるとファシリテーターが思えていることは大事です。
その上で、対応として原則は「見守る」、必要に応じて「介入する」といったことを行います。介入の代表的な技術は「全体像を可視化する」「背景を傾聴する」です。
- 参加者とファシリテーター間で、コンフリクト(意見の対立)が生じたとき、ファシリテーターはどうすればいいでしょうか。
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例えば参加者から「こんな時間は無駄だ」「進行が悪い」といった意見や想いが出てきてしまったとしたら、まずファシリテーターはその意見や想いを「引き受ける」ことが重要です。
ファシリテーターは決して第三者や部外者、客観的な存在ではありません。場に主体的に関わっている一人であり、もしもファシリテーターが逃げてしまったら、必ず場は壊れます。
ただし、対立的な意見を引き受けた上で、保留するか、取り扱うかなどは判断が必要です。
参考
書籍
学習する組織――システム思考で未来を創造する
著:ピーター M センゲ、訳:枝廣 淳子、小田 理一郎 2011年 英治出版
ファシリテーター完全教本 最強のプロが教える理論・技術・実践のすべて
著:ロジャー・シュワーツ、翻訳:寺村 真美、松浦 良高 2005年 日本経済新聞出版