Vol.43 優秀な人材の採用と社員教育どちらにお金をかけるべきか
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今回のご相談内容
正直、社員教育、人材育成を積極的に行おうという気持ちが起こりません。
人間はそんなに簡単に変わらないだろうと思うからです。
教育にお金をかけるのであれば、「優秀な人材を採用する」ということにお金をかけるべきかと思いますが、いかがでしょうか。
石川からのご回答
「採用か?教育か?」というテーマは、度々議論されるところで、問われることも多いですが、私として結論は「採用も、教育も」大事にして頂きたい、ということになります。
もちろん、採用の段階で「優秀な人材」を獲得できれば、それに越したことはありません。採用活動は注力すべき活動の一つに間違いありません。しかし、だからといって「教育」を無視していいわけでもありません。新卒採用だけではなく、基本的には中途採用においてもです。
場合によっては「優秀な人材を採用したのに、入社後にスポイルしてしまった」というようこともありえます。「入社後」は、人材のケアを全くしなくていいかというと、やはりそんなことはありません。
出典:写真AC
入社した人材が優秀になるかは○○の影響が大きい
入社した人材が「優秀さを発揮できるかどうか」や「優秀な人材に成長していくかどうか」は、直属の上司の影響が非常に大きいものです。
上司の指示が的確であったり、評価におけるコミュニケーションが効果的なものであったりしたときに、部下のパフォーマンスや成長速度は、大きく伸びることになります。
「社員教育」をどういう範囲で捉えるかにもよっては、いわゆる外部講師による「研修」だけを社員教育と考えることもできますが、もっとも影響の大きい社員教育は「上司による部下への教育」です。
上司が部下を上手に「教育」できるようになる、ということは、部署全体、会社全体の生産性や競争力を高めることになります。逆に、上司が「教育下手」ということになると、部署全体、会社全体の生産性や競争力を下げることにもなります。
ですから、管理職の能力というものは、組織全体に対してとても影響の大きい要因です。
上司が、部下の教育について能力の高い人材ばかりだったときには、「社員教育にお金をかける」という必要性は低いといってよいと思います。資金を投入して外部研修などを行わなくとも、内部にいる「上司」という存在が、社員の教育部分を担ってくれているからです。
その上司自身が学習意欲や成長意欲が高く、社外の知見も積極的に学び続け、成長し続けているような存在の場合、ますます「教育費の投入」の必要性は薄まります。
しかし、もしそうでないのであれば、もしくは「優秀でないとは言わないが、もっとできるようになって欲しい」というところがあるのであれば、「社員教育」の必要性は出てくるだろうと思います。
そして、最もレバレッジのきく研修は「管理職(を対象とした)研修」ということになります。
最もレバレッジのきく社員教育とは
私は(今はほとんどお受けしていませんが)、例えば「ロジカルシンキング研修」といった研修を1日かけてやらせていただく、というようなことを多数経験してきました。1日学んでいただくと「論理的とはこういうことか」と理解され、「よし明日から仕事で生かそう」と社員の方に意欲的になっていただけます。
しかし、戻った職場において、上司の論理性が高くないと、これはかなりの部分で台無しになってしまうころがあります。
論理的な説明をしても、「理屈っぽいことを言うな」と上司が言ってしまえば、その部下は、「論理性を発揮しよう」「もっと高めていこう」とは思わなくなります。
しかし逆に上司自身の論理性が高まり、部下の説明に「もっと論理的に説明してください」と求めるようになれば、自然と部下は論理性を伸ばそうと努力するようになります。
であるので、もし例えばもし仮に「ロジカルシンキング研修」といった教育を社内で行うとすれば、真っ先に対象として検討すべきは管理職だということになります。
教育をすれば人は「変わる」のか?
まず、教育の前に管理職に昇格させる場合には、管理職としての資質や能力を十分に持っているかということをよく吟味して昇格させるべきです。管理職としての資質や能力を十分に持っている人材を、管理職というポジションに就けるということが理想的ではあります。
しかし、現実には「すでに自社で管理職となっている人材」の管理職としての能力が不足している・・・ということはありえます。
そのような場合には、管理職研修を実施することが求められるでしょう。
では、そのような管理職研修を実施して、「変わる」のかと問われると、素直に言えば「変わる人もいます」という表現になります。
絶対、全員変わります、とは断言できません。
管理職研修を、合計10日間受けても、全く態度も能力も変わらない人もやはりいます。しかし、管理職研修をきっかけとして、変わる人もがいることもまた事実です。管理職研修を受けたBefore/Afterで「人が変わったみたいだ」と言われる人もいます。
私自身も管理職研修を担当させていただきますが、友人・知人には同業の人たちもたくさんいます。そういった世の中の「管理職研修」全般として、もちろん程度の差はありますが、「研修を受けて、人生が変わった」といった話は、しょっちゅう聞くことができます。
私もクライアントの社長から「部長の意識や態度がホントに変わりました。成長しましたね。意識が変わるから、行動も変わりますしね。昔よりずっと積極的に動いてます」と管理職研修の効果を伝えていただいたことがあります。
変わる人は変わるわけです。
効果的な管理職研修は「知識・技術」といった部分だけでなく、目に見えない「意識・態度」といったところにもフォーカスして行われていることが大半です。
目には見えない意識や態度ですが、それは目に見える部分に現れてくるものでもあります。人を馬鹿にした態度や、リスクを恐れる意識・・・・といったものは、日々の言動の中に滲み出てくるモノです。
その自分自身では気づきにくい「自分の意識・態度」といったものを自分でよく見るようにして、自分で自分の意識や態度に気づく、といったことをすることが、最も「変わる」ということに効果的な方法の一つだろうと思います。
「身だしなみが悪いよ!」と言うよりも、鏡で自分の服装や髪型を見るほうが、よほど”気づき”ますし、なおそうと行動するようになるでしょう。
こういった「よき鏡」となれるような機会として、研修などがうまく活用されたときに、人は変わりやすい、ということは言えるかと思います。
前述したように「全員が変わる」とは言えません。目を伏せてしまう人や、鏡が歪んでいるからだと鏡のせいにする人なども、いないわけではありません。
しかし、経験上、そういった自分自身をちゃんと見る機会(時間)というきっかけを得ることで、大変多くの人達が変化していくものだと実感しています。
今回のご質問に対する回答は以上となります。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
[Vol.43 2020/07/21配信号、執筆:石川英明]