Vol.32 緊急時に強い会社組織とは

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今はコロナの影響で、業種を問わず、企業経営は大変な状況になっているかと思います。

市場の動向も読めませんし、政府がどう動くかなども読めません。これほど不確実性が高まっている状態を経験したことは誰もないだろうと思います。

そのような状況下において、特に経営者の方に読んでいただければと思い、〈特別版〉として、今回は【緊急時に強い組織】について書いてみたいと思います。勿論、立場が経営者でなくとも、活用していただけるところがあれば幸いです。
   

緊急時に強い組織とは

不安を共有する

まず第一に考えてみて頂きたいことは、「不安を共有する」という場を持つことです。

これは、上手に行うことができれば、組織の緊張感をやわらげ、過度のストレスからメンバーを守ってくれる効果が期待できます。

但し、雑におこなってしまった場合に不安が増殖し、むしろ組織の健康状態が悪化するリスクもあるため、以下の内容をよく読んでいただき、丁寧に行っていただければと思います。
   

例えば、社員10名の企業であれば、1~2時間ほど全業務をとめて会議の場、対話の場に参加していただきます。「コロナの状況について、みんなで話し合う場を設けます」という感じで、集めて頂けるとよいかと思います。

そして、「それぞれに不安に感じていることがあると思うから、まずはそれを共有したいと思います。どんなことを不安に感じているか、一人一人付箋紙に書き出してみて下さい」といった感じで進んでいくとよいかと思います。

そうすると、

「会社がどうなってしまうのか不安だ」
「売上、利益が減って、給料がなくなってしまうのじゃないか不安だ」
「自分がコロナにうつるのも怖いし、うつしてしまうのも怖い」
「自分がコロナになってオフィスを閉じさせることになってしまったら・・・と思うと本当に怖い。みんなから恨まれてしまう」

例えば、こんな不安が出されるかもしれません。
   

この時に「自分自身が感じている不安」自体を書き出していくように丁寧にお願いしてください。

「政府にちゃんとして欲しい」「社長に決断して欲しい」といった「自分以外への誰か」のリクエストを書くのでないということを明言します。

「政府にちゃんとして欲しい」と思う、その背景にある不安。それは例えば、家賃を払えなくなる不安がある。だから政府にちゃんとして欲しいと思っているのかもしれません。その不安の方を、言葉にする。

そして、そういった具体的なものがなければ「とにかく不安です。怖いです。何もわかりません」ということでも構いません。そういったことを丁寧に伝えて始めてください。
    

出典:写真AC

    

そしてできれば、経営者の方もご自身の不安を吐露することをやってみて頂きたいと思います。

「リーダーは、部下の前で不安を見せてはいけない。そうすると全体が不安に陥ってしまう」という理屈も、それはそれであります。そちらを選ぶ、ということであれば、それは止めませんが、私の推奨するのは、経営者ご自身も、ご自身の不安を共有していただくことです。

例えば「ものすごく不安だ。みんなの給料は、休業手当でなんとかなるかもしれないが、おそらく役員報酬は対象とならない。子供の学費も払えなくなるかもしれない。不安だ」といったことを共有いただくのです。

これを聞いた社員さん達が、どのような感想をいだくのか、正直それはコントロールはできません。もしかしたら「弱音を吐きやがって」とか「お前は金を持っているだろう」とか、心の中で思われる・・・というようなこともありえなくはありません。

しかし、こういった素直な心の吐露に対して、多くの人は思った以上に愛をもって受け止めてくれるものだと、経験上強く確信しています。

こういったことをテクニカルに書く事は少しはばかられますが「社員のみんなの生活も不安だ。給料をちゃんと払えるか。コロナにかかって、みんなの家族にまで危険が及ぶことが不安だ」といったことも、同時に伝えていただけたならば、悪意ある解釈、ねじ曲がった解釈をされることはかなり減ると思います。

   

そして、実際、何よりも経営者の方は、強い不安を感じている方が多いと思うのです。その不安を、孤独に抱え続けることは、精神衛生上いいものではありません。経営者はなかなかに孤独な仕事ですが、今回ばかりは、少し肩の荷を下ろして、みんなにも背負ってもらっていいと思うのです。

勇気がいる面もありますが、社員にも一緒に不安を感じてもらい「みんなで」なんとかしていこう、というようにすることをお勧めします。そうして、立場を超えて、一人一人の不安が共有されて「そうだよね。みんな不安だよね。それぞれの立場なりに不安や怖いことがあるよね」と共有される。

それだけでも組織の健全性はぐっと高まります。
   

そしてこれは不思議なことに(心理学的には研究されていることでもありますが)、不安な感情などが丁寧に共有されると、本当にそれだけで不安心が軽減します。

そして、少し落ち着いて考えられるような「スペース」が出来てきます。
    

シナリオを考えてみる

今後、どんな展開がありえるのだろうか?

それを「誰も正解は分からない」という前提で考えてみます。

「自分たちはどうすべきか?」を置いておいて、ある意味、もともとアンコントローラブルな外部環境が、どのようになっていく可能性があるのか、それについて考えてみます。
    

出典:写真AC

   

ここで大切なことは「自分たちの責任や対応はさておき」としておくことです。

お客さんはどうなるだろうか?
お客さんの置かれる状況はどうなるだろうか?
そうなった場合のお客さんの購買行動はどうなるだろうか?

取引先はどうなるだろうか?
仕入れをしている場合、仕入れ先の動向はどうなるだろうか?

政府や自治体はどうなるだろうか?
学校などはどうなるだろうか?

また、既にある情報を共有するとどうだろうか?
どんな補償施策などが検討されているというニュースがあっただろうか?
海外ではどんな事例があるだろうか?

こういったことについて考えていきます。

(オンラインの)ホワイトボードなどに書き出しながら、可視化してやっていくとよいでしょう。
    

来店が減り続けるかもしれない。
休校が続くかもしれない。
仕入が滞るかもしれない。

そういったことについて複数パタンの未来を考えてみます。

例えば、休校という要素でも、GWまでなのか、夏まで続くのか、秋まで続くパタンもあり得る・・・などと考えてみましょう。

書き出されて、可視化されて、それを「眺める」ということができると、いい意味で少し客観的に「ああ、こういう流れになる可能性はあるなぁ・・・」「こっちのシナリオにいく可能性が高そうだなぁ・・・」と分析することができます。
    

対策について考える

大まかに2~3程度のシナリオに収束させて「それぞれのシナリオになったらどうするか?」についても考えてみます。

例えば、「シナリオ1:緊急事態宣言で、実質休業しなければいけない。数か月、会社はお休み」。このシナリオになったとしたらもう休業するしかないですね、その間の資金繰りや、給与などは、雇用調整助成金や、銀行からの借り入れなどでなんとかするしかありませんね・・・・といったことを話し合います。

「シナリオ2:・・・・」になったら、その時とるべき行動としては・・・と考えていきます。

実際にどのシナリオになっていくかは分かりませんが「それぞれのシナリオに進んでいったときに、自分たちの仕事状況、生活状況のイメージが湧いてきた」となると、とてもよいです。
    

人間は「漠然とした不安」を持ちます。

そしてこの「漠然とした不安」というのはかなり強力なものです。その漠然とした不安が「ハッキリとしたよくない状況想定」となると、なぜかこちらの方が心が落ち着いてくるのです。

もちろん多少は「うわー、この最悪のシナリオになったらホントに最悪だ・・・」という感じで、恐怖が増殖する可能性もなくはありません。

しかしほとんどの場合「・・・。もちろん最悪は避けたいけれど、最悪でもこのくらいなのだと見えた」と、少し落ち着いて考えられるようになります。
    

出典:写真AC

    

対話の時間そのものの価値

これを、最初に申し上げたように、例えば社員10名の会社で、全社員で一緒にやったとします。その1~2時間を共有することで、確実に「私たちの共通認識」は深まります。これは「社員の中でもバラバラで、お互いにコミュニケーションがかみ合わない」という状態とは全く違う状態です。

そして、日々状況が変わっていきますし、否が応でも、新しい情報に触れていくことになるかと思います。そして新しい状況、情報が出てきたら「また集まってちょっとみんなで対話しませんか」とします。

誰が持ってきた情報であっても共有し、みんなでその情報の意味を再構成する時間を持つようにすると、組織としての情報収集力はぐっと上がります。勿論、誰か一人だけが情報をもって、決断をしなければいけない、という状況よりも質が高まります。

このような情報共有と対話に慣れてきて習慣化してくると、それは【緊急時に強い組織】になっていると言って差し支えないと思います。

   

社長は社長で強い不安と責任感に苛まれ誰にも共有できずに孤独を感じている。社員は社員で、上司や役員への期待や落胆ばかりが募り、不安にさいなまれている。そんな状態では、すぐに組織は機能不全に陥ってしまいます。

対話という羽織をはおることで、厳しい外部環境の変化にも適切に対応できる組織になっていけるものと思います。
   

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.32 2020/04/07配信号、執筆:石川英明]