Vol.52 利益一辺倒の会社経営の在り方に対し、社会から変化を求められている

今回のご相談内容

日本社会自体が、人口縮小フェーズに入ったこともあり、大きな意味では「成長一辺倒」というのが難しくなってきていると感じています。

またSDGsやサスティナビリティなどのキーワードも最近、頻繁に目にするようになり、利益一辺倒の経営に対して、社会から変化を求められているようにも感じています。

このあたりのことについてどのようにお考えでしょうか。

        

石川からのご回答

国内市場では利益を伸ばすことが難しい時代

利益追求一辺倒の経営には、現場で働くビジネスパーソンから経営者の方まで多くの人が限界や違和感を感じているかと思います。

しかし「利益の拡大」という一つの目標を共有することはシンプルです。シンプルだということは多くの場合パワフルです。それが故に「利益を拡大する」というシンプルな目標は、企業経営の究極の目標として長らく機能してきました。

特に上場企業において、株式市場において「利益が拡大していく」ということは当然求められてきたことです。利益が拡大していきそうな企業の株が買われ、株価が高まる。利益が減少していきそうな企業の株は売られ、株価が下がっていく。

そのようにして株式市場の市場原理は機能してきました。
   

しかし、例えばSDGsやサスティナビリティのように「利益以外の観点も考える必要性がある」という社会的要請が強まってきています。

古くはCSR、CSVといったことも社会の公器としての企業に「利益以外のことも考えるように」という流れは存在してきました。
   

また、日本社会においては、マクロで見たときに「利益拡大」というトレンドではない、という見方もあります。

一つには、一国の市場規模を考えたときに「人口」という要素はとても大きな影響があるものであり、日本は人口減少のトレンドに入ってきています。出生率が2を切ったのはもう随分と前のことです。出生率が2未満の国は、人口は減っていきます。

国全体の市場規模は「人口×一人当たり年収」とほぼイコールなわけですから、人口が減れば、市場規模は基本的には減っていきます。そういった大きなトレンドの中において「さらに売上・利益を拡大していこう」というのは、大変難しいわけです。

もちろん、マクロとミクロは違う動きをしますから、国全体としてそうだったとしても、「うちの業界は違う」「うちの会社は違う」ということは勿論、ありえます。しかし、大きなトレンドとしては「利益を伸ばすことが難しい時代」だと言って、差し支えないと思います。

社会的要請と、国内市場のマクロのトレンド。この二つの影響は大なり小なり、どの企業にも影響があると言ってもいいでしょう。
  

そして、人口ピラミッドの変化などから、昔のような「30代で課長になり、40代で部長になり、50代で役員になるか、ならないか。そして60歳で引退」といったようなキャリアパスはほとんど描けなくなっています。

年齢構成的に「年上の方が人数が多い」ことは避けられず、かつ「60歳で引退」ともならずに、70歳でも現役で働くことが求められる社会というように変わってきています。

そうすると「出世」をモチベーションとして働く、ということ自体に無理が生じてきます。年功序列要素を持っている場合、「出世」するポジションはもう空かないのです。

そうなってくると今までのようなシンプルな「利益拡大&出世(収入拡大)」という組織マネジメントは通用しなくなってきます。
   

働く人の価値観にも変化が・・・

    

「幸せ」の形も、多様化が進んでいます。

「いい企業に入り、出世し、マイホームを購入し、老後資金をためる」

こういった幸せの形が、実現しにくくなっているということもありますし、それを「それが幸せの(唯一の)形だ」と思う人も減っているということもあります。

バブル崩壊後に、日本社会における年功序列(及び終身雇用)という文化がほぼ崩壊しています。決まったステップをどれだけ昇っているかということではなく「自分なりの幸せの形を追求する」といったことが増えてきています。

そうならざるを得なくなった面も含めて。2020年のコロナウイルスによる社会情勢の変化も、人々の働き方の認識を変える大きなインパクトがありました。
   

そのような社会情勢にある中で、経営はどうあるべきか?

これは、会社が社会の中にある以上、影響を受けないわけにはいきませんし、考えざるを得ません。
   

また、もう一つ大きな要素があります。VUCA、というキーワードが使われますが、社会は確実に以前よりも「変化が早く」なっています。

どんどん変わってしまう。

新技術が生まれ、新産業が生まれ、あっという間に既存ビジネスが陳腐化する、というスピードは確実に早くなっています。以前であれば「いいビジネスモデルを作れた。これで20年は安泰だろう」ということがありました。

一つ例を挙げれば「税理士の資格を取れた。これで20年は安泰だろう」というようなことがありました。しかし、AIも含めたITの発達によって、3年も安泰でいられない、ということが起こっています。

環境変化が早くなり、その環境変化に対応し続けなければ、企業経営がすぐに立ち行かなくなるという傾向は、年々強まっています。

カセットテープは1964年に生まれ、CDが生まれる1982年まで、20年弱、記録メディアの王者でした。MDが出てきたのは1992年。CDの誕生から10年です。そこからMP3が出てきたのは10年も経たず、2001年にはiPodが出てきてMDはなくなりました。

これだけとっても「変化が早くなっている」ということはお分かり頂けると思います。
  

企業は、早く常に変化する市場環境に対応できなければ生き残れなくなってきています。「早く対応する」ために必要な要素は二つあります。

一つは、企業にとっての「北極星」のような変わらない存在です。市場がどう変化しようが、どこに向かっているのか、何のために存在しているのかといった変わらないものがしっかりあるということ。

もう一つは、北極星に向かって進んでいるにしても、今波は大きいのか小さいのか、向かい風なのか追い風なのか、そういった刻一刻と変化する環境を「察知して対応する」力です。
  

つまり

「多様性対応力」
「利益以外の存在意義」
「変化対応力」は、

ほとんどの企業で求められる、ということになります。
    

これからの会社経営で直面する課題

今、AIやRPAなどが注目され、より一層の「業務の効率化」が進められていくことになるかと思います。これは、短期的、局所的には「業務効率化」「コスト削減」につながりますが、マクロ的にみると「雇用の喪失」に確実につながっていきます。

間違いなく、例えば「経理」といった仕事に携わってきた雇用の数は、今後3年だけでも大幅に減っていくことでしょう。大銀行が、どんどんと人員整理を進めようとしているニュースが出てきていますが、これも、その流れの一部であると言えます。

もちろんマクロ経済のことは、一企業が対応すべきことではなく、地方や国の行政で対応していくべき領域ということになってきますが、その「行政で対応すべきこと」は、企業への要請としても降りてくる可能性は十二分にあります。

そうだとすれば、要請を受けてからアタフタと対応するよりも、本質をよく考え、先手を打っていく経営が求められると言ってもよいかと思います。
   

本質的に、社会から企業に求められるものとして「雇用の創出」ということが、より一層強くなってくるということが言えます。

そしてそれは「利益をとにかく増やす」という成長一辺倒のことではなく、より多面的な経営の舵取りが求められてくるようになるということです。この時に、私が重要と考えているのは「質への転換」という観点です。

 これまでは、基本的に「利益を増やす」ということで、それが給与原資にもなり、社員への還元となるというのが経営における根幹をなしていたかと思います。

しかし、仮に、市場規模が増えない、もしくは減っていくトレンドにあるとしたら「利益を増やす」以外の何かが、ビジネスをする上で、働く上で、どうしても必要となってきます。定量的な「利益」「お金」以外の何かを増やそうとすれば、それは定性的な何かということになります。

ここで例えば「出世・役職・肩書」というものも「仕事を頑張るモチベーション」となるかもしれませんが、これまた大きなトレンド的には「会社が社員に与えるもの」としては非常に難しくなってきています。

ご承知の通り、人口構成は「高齢者の方が多く、若者の方が少ない」わけですから、部長と言った管理職のポジションは、埋まってしまっていて大渋滞状態です。
   

出典:写真AC

   

ではこれからの社会において、会社は、頑張る社員に対して、何を還元できるのでしょうか?

時間

一つ、分かりやすく存在するのは「時間」です。会社の実態に即して言えば、休暇ということになります。もし、AIやRPAなどによって業務効率化が進めば、理論上は「時間がかからなく」なるはずです。

人間がやっていたものを、ロボットがやってくれるようになったときに、浮いた「時間」を、そのまま社員に還元します。

有給休暇日数が、年間20日だったところ、年間40日に増やす、といったことは可能なはずです。業務効率化によって仕事量が減っても、売上・利益が維持されているのだとしたら、これはかなり妥当な選択です。

「時間」が与えられた社員は、自分自身のWLB(ワークライフバランス)を高められ、Well-Being(よく生きる)を高められるでしょう。これは、社員への大きな還元となるでしょう。

「仕事を頑張れば頑張るほど、(勤務時間は変わらないけど)給料が増える」というモデルから、「仕事を頑張れば頑張るほど、(給料は変わらないけど)休暇が増える」というモデルへの転換です。
  

生産性、というものは根本的には「利益/時間」の割合のことですから、利益が一定という前提なら、労働時間を減らせば減らすほど、生産性は高まっているということになります。

おそらくですが、これは今後大きなトレンドになっていくのではないかと私は予想しています。
   

やりがい

他に考えられる要素としては「やりがい」です。

これまでも企業経営の中で社員の「やりがい」については考えられてきたと思いますが、あくまで副次的な位置づけであったと思います。

基本的には利益を増やすこと。それによって昇進・昇給で還元すること。このマネジメントスタイルがほとんどでした。それが「やりがいにもつながっているはずだ」というくらいのところで、やりがいそのものを第一に、研究し、マネジメントしてきた企業というのはそれほど多くないと思います。

会社が、昇進・昇給を与えられない以上、「やりがいを高める」マネジメントができないと、働く人を集めるのにも苦労するということは容易に想像される未来です。
   

同じ業種、職種であっても、働く人々は「よりやりがいを感じられる職場」の方を選ぶことでしょう。

この「やりがい」をいかに高めるかという観点においては、自社の存在意義、社会的価値といったことがこれまで以上に重要になってきます。またその「自社の存在意義」を、実際に働く人々が「実感できる」仕組みを構築できるかどうかも、経営の仕事としてより一層重要性を増していくことでしょう。
   

人が、やりがいを感じられる仕事というのは、基本的な要素として3つあります。

意義、個性、難易度の3つです。

また、最近は「従業員ロイヤリティ(忠誠心)」といった言葉はあまり使われなくなり、エンゲージメントといった言葉の方が多く使われるようになってきていますが、これは、とても平たく言うと「自社のことが好きかどうか」ということです。

自社を好きだと感じながら働いている社員と、自社を嫌いだと思っている社員と、どちらの方がやりがいを持って働けるか。それは言わずもがなです。

とすると社員が「自分の会社を好きだ」と思える環境を提供することも重要だということになりますが、そのためのカギとなるキーワードは「全体性」です。
   

要素としては、以下のものをご提示しました。

「時間」
「やりがい」
 -存在意義
 -個性
 -難易度
 -全体性

これらの要素についての実際問題については、次回以降詳述できればと思います。

    

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.52 2020/10/06配信号、執筆:石川英明]