Vol.71 心理的安全性を高めるためには
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今回のご相談内容
心理的安全性が重要だと最近よく耳にしますが、そもそも心理的安全性がある会社というのは、どういうものなのかもイメージがあまり湧いていません。実際に心理的安全性が高い会社の事例も含めて、企業で心理的安全性を高めるメリットや価値を教えていただきたいです。
また、具体的にどのようなことに取り組んだらよいかについてもヒントを頂ければと思います。
石川からのご回答
そもそも心理的安全性とは何か?
Googleが社内の生産性についての研究をした「プロジェクト・アリストテレス」の成果報告として、「生産性の高いチームは、心理的安全性が高かった」ということを発表してから、この心理的安全性というキーワードは急激に注目を浴びるようになりました。
最近ではハーバード・ビジネススクールのエドモンドソン教授による「恐れのない組織」が出版され、引き続き注目されている概念かと思います。
心理的安全性が高い組織というのは、一言でいえば「率直に議論できる組織」と言ってよいだろうと思います。 「これを言ったら評価を下げられてしまうのではないか」とか「どうせ、これを言っても上には理解されない」といった不安や諦め感から、コミュニケーション不全に陥っているようだと「心理的安全性が低い組織」と言えます。
用語に対する説明は、下記の記事もよろしければ参考にご覧ください。
なぜ企業において心理的安全性が重要なのか
心理的安全性の高いチーム、組織、会社というものは「率直に議論ができる」ということです。この率直な議論ができていないと、どうなってしまうのでしょうか?それは例えば「面従腹背」といったことが起こります。
上司が「Aで行こう」と言った際に、部下は「Aは違うと思うな、、、」「Bの方がいいだろう、、、」「Aは無理じゃないか、、、」と本音では思っていたとしても、違う意見を出すことが上司への批判ととられてしまい、人間関係が悪化したり、場合によっては自分の評価を下げられてしまう・・・ということを恐れて本音を言わないといった状態が面従腹背です。
『学習する組織』(ピーター・センゲ)では、ビジョンや目標に対するスタンスを7つのレベルに定義しています。
Lv.7 コミットメント
それを心から望む。あくまでもそれを実現しようとする。必要ならば、どんな「法」(構造)をも編み出す。Lv.6 参画
それを心から望む。「法の精神」内でできることならば何でもする。Lv.5 心からの追従
ビジョンのメリットを理解している。期待されていることはすべてするし、それ以上のこともする。「法の文言」に従う。「良き兵士」Lv.4 形だけの追従
全体としては、ビジョンのメリットを理解している。期待されていることはするが、それ以上のことはしない。「そこそこ良き兵士」Lv.3 嫌々ながらの追従
ビジョンのメリットを理解していない。だが、職を失いたくもない。義務だからという理由で期待されていることは一通りこなすものの、乗り気でないことを周囲に示す。Lv.2 不追従
ビジョンのメリットを理解せず、期待されていることをするつもりもない。「やらないよ。無理強いはできないさ。」Lv.1 無関心
『学習する組織』ピーター・センゲ
ビジョンに賛成でも反対でもない。興味なし。エネルギーもなし。「もう帰っていい?」
心理的安全性の低いチームや組織では、チームや組織の目標やゴールに対してLv3以下のスタンスでしか関われないという状態が生まれやすくなります。そのような状態では、会社やチームの目標を達成することが難しくなることは想像に難くありません。
逆に、メンバーのコミットメントのレベルが、Lv5、Lv6、Lv7という状態であれば、メンバー一人一人が、目標の達成に向けて、能動的、創造的に活動していくことがイメージできます。そのようなチームであれば、目標を達成できる可能性はぐっと高くなるでしょう。
だからこそ、組織の心理的安全性は重要なのです。
心理的安全性を高めるにはどうしたらよいのか?
では、どうしたら組織の心理的安全性を高めることができるでしょうか?
出典:写真AC
反論に慣れる
率直な議論ができるということは、「多様な意見が受容される話し合いができる」ということです。「Aがいいのではないか」「いやBの方がいいのではないか」「もしかするとCという可能性もあるのではないか」ということを、しっかりと議論ができる、ということです。
特に日本ではこの「しっかりと議論する」ということに慣れていないビジネスパーソンがまだまだ多いように感じます。
「しっかりと議論する」ためには、“人”と“意見”を分離させて、意見を意見として取り扱うことが重要です。「XさんはA派で、YさんはB派」のように人と意見をくっつけていると健全な議論をしていくことが難しくなります。
人と意見がくっついた認識でいると「Aは違うと思います。Bの方が良いと思います」という発言が出てきた際に「Xさんが否定された」のように解釈されてしまいます。そのような解釈パタンが強い組織では「反対意見を言うということは、相手のことを否定していること」となってしまい、意見を述べる際にとても勇気がいるということになってしまいます。これがまさに心理的安全性が低いという状況です。
ディベートを活用する
一つ、具体的な手法として「ディベート」を議論のツールとして用いることは効果的です。ディベートでは「Aがよいか?Bがよいか?」を検討する際に、役割としてAがよいという立場で考えてみる、ということを行います。自分自身が本当にAがよいと思っているかどうかに関わらず「Aがよいとしたら、どのようなメリットや根拠があるのか?」を役割として考えていくわけです。
このディベートの方式を活用することで「人と意見を分離させる」ということを構造的に担保することができます。
このディベート形式での議論に慣れてくると、形式ばったディベートの形での議論をしなくとも「ディベート思考が身についたメンバー同士での議論」が可能となります。
ディベートでは「あいつはA派のはずだったのに、B派に寝返りやがった」というような発想が起きません。そもそも「議論を尽くす」ということは、Aの方がいいかもしれない、Bの方がいいかもしれない、もしかするとCなどの選択肢が出てくるかもしれない「いろいろな可能性がある」という前提で議論をするわけです。
議論を尽くすプロセスにおいては、上司も部下も関係ありません。あくまで「意見」をぶつけて吟味していきます。ディベートでは「上司がA派にいるから、忖度して、B派が負けるように議論していこう」にはならず、あくまで「A、B両面からよく吟味してみよう」となります。
上司も「議論する前の自分の感覚ではAがよさそうだけれど、部下たちとしっかり議論してAがよいかBがよいか結論を出そう」というスタンスでいることができます。 このような前提認識を組織として共有できるようになってくると、組織全体の心理的安全性が高まってくることになります。
未熟な意見も尊重する
何か発言をした際に「なに馬鹿なこと言ってるんだ」「そんなの上手くいくわけないだろう」といった断定的な否定に直面すると、人は発言することを恐れるようになります。
「ちゃんと考えてからでないと発言してはいけない」「上司の意に沿わない発言は控えるべきだ」というに考えるようになり、「安心して議論に参加する」ということはできなくなっていきます。
これを防ぐためには、たとえ未熟な意見であったとしても、発言そのものは尊重し「自分の意見を発信した」ということ自体は肯定的に受け止められることが重要です。
これはもちろん「未熟な意見でも採用する」ということでは全くありません。それは「しっかりと議論する」ということから外れてしまいます。
議論の場で未熟な意見が出てきたら、感情的にならずに(この辺りはアンガーマネジメントやEQのトレーニングも重要となってきます)、その意見では上手くいかないことを、粛々と説明するとよいでしょう。「反論する」ということは議論の質を高める上で最も重要な要素です。
例えば新入社員が、的外れな未熟な意見を発言したとしても「お前、馬鹿か、、、」というような反応をすることは控えることが重要です。「お前、馬鹿か、、、」というような反応は、まさに人と意見を分離できていない反応とも言えます。
「その意見は、AとBとCの観点からやらないほうが良いと考える。なぜならば・・・」というような説明があれば、その新入社員も「ああ、そうかAとBとCという観点も含めて考える必要があるのか」「確かに、その観点も考えると、このアイデアはよいアイデアとは言えないな」と学習することができます。 未熟な意見に対しても真摯に議論をすることは、社員の成長支援と言った観点からも非常に効果的なものです。
感情を適切に取り扱う
心理的安全性を高める上で「感情」をどのように扱うかは非常に重要な要素の一つです。そもそもが「心理的」安全性なわけですから、心理や感情のことを大切にすることになります。
多くの職場において、まだまだ「感情」は、不要なもの、邪魔者といった扱いを受けていることが多くあります。
ざっくりと分類した際に、ポジティブな感情(喜び、感謝、ワクワクなど)と、ネガティブな感情(不安、焦り、怒りなど)とがありますが、特にネガティブな感情というのは、職場では見せない、共有しない、「それが大人ということだ」といった認知パタンは根強く存在していると思います。
そういった職場で、心理的安全性を高めていく、つまり不安や焦りなどネガティブな感情も共有できるようになるには、いくつかステップを踏むことが大切です。
感情を適切に取り扱うためのステップ
考え方としてまず
と分けることができます。
最初のステップとしては、まず「業務上の×ポジティブ感情」を共有するところから慣れていくとよいでしょう。
例えば、週次の報告会や朝礼などがあったとします。そのような場で「今週の嬉しかったこと」などを共有します。お客様から感謝の声が届いて嬉しかったとか、トラブルが起きたときに同僚に助けてもらって有難かったとか、そういったことを共有します。
業務に紐づいたポジティブ感情は、かなり取り扱いやすいもので、これを共有して、マイナスのことが起こることはあまりありません。(あるとすれば心理的安全性について理解のない人が「こんな時間は無駄だ」と解釈するパタンがありますが、これについては心理的安全性を高める重要性をしっかりと共有することが必要になります)
最終的に「プライベートの×ネガティブ感情」も取り扱えるようになると、その職場の心理的安全性はかなり高い、ということになりますが、その手前に「業務上のネガティブ感情」か「プライベートの×ポジティブ感情」か、どちらかの共有というステップを入れることが重要です。
どちらから先に取り組むかは、職場の傾向によって考えるとよいでしょう。比較的、プライベートの情報も普段から共有しているような職場であれば「プライベートの×ポジティブ感情」について、オフィシャルな会議の場などでも共有してみるとよいでしょう。
「業務外で、今週の嬉しかったことや、ありがたかったことは?」といったことを共有します。そうすると例えば、子供の卒業式が感慨深かったとか、学生時代の友人と久しぶりに飲みに行って楽しかったとか、そういったプライベートの情報が共有されるようになります。
「プライベートの情報も、職場で共有してもよいのだ」という文化が徐々に醸成されていきます。
比較的「プライベートの情報は、職場で話さないものだ」という傾向が強い職場であれば「業務上の×ネガティブ感情」の方から取り組んだ方がやりやすいでしょう。「業務上の課題などで、不安に感じていたり、ストレスに感じていたりすることは何か?」といったことをオフィシャルな会議の中で取り扱うようにします。
「今月末の納期がかなり厳しくて、正直かなりプレッシャーを感じてます。胃が痛いです」といったことを共有するわけです。
「ただ聞いてもらえた」というだけでも、ストレスが緩和する効果があります。場合によっては「そんなに大変なら少し手伝おうか?」といったアクションが出てくることもあるでしょう。しかし、重要なのはネガティブ感情を共有したからと言って「必ず助けを差し伸べなければならない」わけではない、ということです。これは前提として非常に重要なところです。
こうして「組織として、ネガティブ感情を共有する」ということに慣れていきます。そうしてリテラシーが高まっていくわけです。
こういったステップを踏んで「プライベートのことも話したければ話していいんだ」(もちろん、話したくないことは話さない権利はあります!)、「ネガティブな感情も共有していいんだ」「共有して聞いてもらえると少し気持ちが楽になった」といった認識を、組織として共有できるようになってくると「プライベートの×ネガティブ感情」も共有できるようになってきます。
実際にあった例ですが、心理的安全性を高めることにしっかりと取り組んでいたある企業で、新入社員から「よく眠れていないんです。なにか良い方法などご存じでしたら教えてください」という話が出たことがあります。
これはまさに「プライベートの×ネガティブ感情」の共有です。その会社では既に文化として洗練されてきていたので、
ああ、寝れないのはつらいねぇ。。。
まぁ、上京してきて、初めての一人暮らしで、社会人1年目で、いきなりコロナで、そりゃ、ストレス多いよなぁ。。。
アロマとか結構いいって聞くけど、試してみたら?
こんな風な、周囲からの反応があり、相談した新入社員の方も「ああ、聞いてもらえてよかったです。親身にアドバイスしていただいてありがとうございます。ぜひ、試してみます」といった反応でした。
おそらく「相談できた」というだけで、かなりのストレス軽減があったでしょうし、「職場の先輩たちは、困っていたり悩んでいたりすることがあったら、ちゃんと相談にのってくれるんだ」と実感したことでしょう。
これは、心理的安全性の権威であるエドモンドソン教授が示している「心理的安全性の高さチェック」の要素の一つである「チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい(かどうか)」にまさに当てはまります。
他にも、例えば「実は、親が要介護状態になってしまい、、、これまでのようには忙しい時期は残業してでも終わらせる、みたいなことが難しくなりそうで、、、とても申し訳ないです、、、」といったことが共有された会社もあります。
「そんなのは仕事と関係ない」「お前のプライベートの話を、仕事に持ち込むな」もし、こんな反応が返ってきたとしたら、その社員にとっては「この職場に、心理的安全性はない」と思うに至る、十分すぎる出来事です。
おそらく「職場で悩みや不安を打ち明けるのは、二度としない」と思うようになることでしょう。
しかし
- 「忙しい時期に頼れないのは正直痛手だけど、ご家族を大切にしてほしい」
- 「しばらくの間、Aさんは残業できないという前提で、どうしたらいいかみんなで考えよう」
そういった会話がなされたとしたら、関係の質が高まることは間違いありません。そうして、成功循環が、好循環に回っていくようになります。
心理的安全性を高める上での壁となる要因
上司という存在
「上司」という存在はなかなか難しいものです。部下は部下で「上司」には、完璧であってほしい、理想的であってほしい、ミスしないでほしい、優秀であってほしいという期待を過剰に持っているケースが多くあります。
そして上司自身も「上司なのだから、完璧にこなさなければならない」「間違ってはいけない」「部下に弱みを見せてなめられてはいけない」というような想いをもって、自分自身をがんじがらめにしてしまっていることが多々あります。
ほとんどの企業では「上司/部下」というヒエラルキー構造を持っているわけですから、このヒエラルキー構造がある中においても、心理的安全性を高められる必要があります。
- 上司にも「分からない」ことはある
- 上司も、部下を含めた周囲の人間に「相談」をしてよい
- 上司も人間で、疲れたり、イライラしたりすることはある
- 上司には上司のプレッシャーがあり、人間としてストレスを感じながら仕事をしている
いかがでしょうか。
この4つの観点に対して、上司も部下も両方から「上司と言うものはそういうものだ」と思えているとしたら、その職場の心理的安全性はかなり高めやすいと言えるでしょう。
もし上司の方はこう思っていても、部下の方は「上司は完璧でいてほしい」が強ければ、上司自身が、自分の弱さを見せることができずに、上司にとって心理的安全性の低い職場と言うことになるでしょう。
もし部下の方は4つの観点にYESと思っていても、上司自身が「上司は完璧でなければならない」と自分自身に課していたら、これまた上司にとって心理的安全性が高い職場にはなりません。
2020年夏前の事例ですが、ある会社で社長が「感染対策しっかりしようね。嫌だよ俺、記者会見とかひらかなきゃいけなくなって、謝罪会見とかするの。ホント頼むよー!」といった発言を会議でしました。
それを聞いた社員たちは「そりゃそうだよな、社長だって人間だし、そんな目に合いたくないよな。」というように受け入れて、ちゃんと自分たちでできる感染対策をしっかりやっていこう、というようになった場面に居合わせたことがあります。
これは一朝一夕になったものではありませんが、その会社では「社長や管理職だって、感情を持った一人の人間」「新入社員だって、感情を持った一人の人間」そういった認識を長い年月をかけて醸成してきていたのです。
上司と議論する
これは「反論に慣れる」の派生形ですが、上司と部下も「議論」ができる職場は、心理的安全性が高いと言えます。
最終的に判断し、責任をもって判断をするのは役割上、上司になります。しかし、その判断をする前のプロセスでは、上司か部下か関係なく「Aの方がいいのではないか」「いやAはデメリットが大きい」といったことを言い合える必要があります。
これは上司の方も「自分はAがいいと思っていたのに、部下がBだと反論してきた。気に食わない」といった反応をしていると健全な議論はできなくなります。
また部下の方も過剰に「上司なのだから、正しい意見を言うべきだ」と期待を持ちすぎていると、これまた健全な議論をすることは難しくなります。
ディベートについてお勧めしましたが、そこでも述べたように「議論のプロセスにおいては、肩書を抜きにして議論を尽くす」ことが重要であり、尽くされた議論の結果、最終的に判断をするのは上司になる、ということになります。
このことを、上司も、部下も、共通認識としてもつことは、職場の心理的安全性を高める上で非常に重要な要素と言えるでしょう
心理的安全性は「ぬるま湯」という批判はどう考えるべきか?
出典:写真AC
時折「心理的安全性とかいうが、ぬるま湯にしかならない」と言った批判的な意見を目にすることがあります。
これについては、心理的安全性について誤解をしていると申し上げてよいと思います。
ここまで見てきたように、心理的安全性というのは、例えば「若手社員の意見をなにも否定せず、いいよいいよと甘やかす」ということでは決してありません。
そうではなくて職場において「しっかりと議論を尽くせる」という土壌を作るということであり、「共に働くメンバーの状況(プライベートのネガティブ感情を含む)をしっかりと共有し、チームとしての最善策を考える」ということです。
確かに、心理的安全性を高めるには、各人の傾聴力を高めて「しっかりと聞く」ということは非常に重要になります。そこだけ切り取ると「なんでも受け入れてもらえる」というように誤解されるかもしれません。
しかし、傾聴は、肯定とは違います。反論をしてはいけない、というものではないのです。相手の意見にしっかりと耳を傾けたうえで「私は、違う意見を持っている」とか「ここが納得いかなかったのでもう少し聞かせて欲しい」というように、反論したり、突っ込んだりしないわけではないのです。
むしろ、そうした適切な反論や、突っ込みができる状態が作られているものが「心理的安全性が高い」という状態になります。
心理的安全性を高めることのメリット
様々な企業において心理的安全性を高めるご支援をしてきましたが、心理的安全性が向上することには、大きなメリットがあります。
一番のメリットは【質の高い合意形成が素早く可能】だということです。
まず「質の高い」というところになります。例えば、社長が100の情報を持っていて、部長は(重ならない)20の情報を持っていて、社員は(重ならない)30の情報を持っていたとします。
質の高い判断は、社長が持っている100の情報だけで判断するよりも、この合計150の情報を踏まえたうえでの判断になるのは間違いありません。
心理的安全性の高い職場では「こんな状況もある」「こんなリスクもある」といった情報が共有されやすくなります。それゆえに「質の高い」判断をしやすくなります。
そして「合意形成」がしっかりとできます。
合計150の情報を、社長も、部長も、社員も持ったうえで「いろいろ検討したがA案で行こう」と社長が決めた場合に、部長も社員も納得できる度合が高いわけです。つまり本音で「合意」できます。
社長が言うからしょうがない、といった面従腹背といったことになりません。面従腹背では決定事項に対して社員の動きは鈍くなったりしますが、しっかりと合意形成ができていれば、決まった方向性に対して、関わる人々は前向きに積極的に貢献していこう、となります。
そして最後が「素早く可能」という点です。
「心理的安全性が高い職場になる」のは一朝一夕でいかないところがあり、時間をかけてそういった文化を醸成していく必要があります。ただ、そうして時間をかけて心理的安全性の高い職場が出来てくると、そこから質の高い合計性を「素早く」できるようになってきます。
心理的安全性を高めてきたある会社では、2020年春の緊急事態宣言があった際に「事業を止めるか、止めないか?」「リモートワーク対応はどうするか?」「部署ごとの出勤必要性の違いにどう対応するか?」こういった重要な議題について、管理職レベル、現場レベルで、パッと集まって、パッと結論が出されて実行に移されていました。
- 事業は止めない。止めてしまうと、売上、利益、給与が厳しくなってくるから
- できる限りリモートワーク対応する。緊急事態なので、不備があってもしょうがない
- 部署ごとの不公平は、あってもしょうがない。但し、感染リスクを背負って出社してくれているメンバーがいることはちゃんと認識しておく
こういったことが、管理職レベル、現場レベルで、当事者たちが集まってパッと合意形成されていたのです。
VUCAの時代において、このように「当事者たちばパッと集まって、パッと合意形成し、実行する」といった柔軟な対応力、組織力といったものはとても重要なものであると言えます。
心理的安全性の高い職場づくりに、少しでもこの記事がお役に立てば幸いです。
[Vol.71 2021/03/16配信号、Vol.72 2021/03/23配信号、Vol.73 2021/03/30配信号、執筆:石川英明]