Vol.129 組織の成長スピードを規定するものは?
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今回のご相談内容
「もっとスピード感をもってほしい」「もっと会社の成長にコミットしてほしい」「どうしたら早く大きくなれますかね?」「なんでスピード感でないんですかね?」経営者の方から、会社の成長スピードについて、よくこのような言葉をお聞きすることがあります。今回は「組織の成長スピードを規定するもの」について考えてみたいと思います。
石川からのご回答
組織の成長スピードを決めるものは?
組織の成長スピードは何によって決まるのでしょうか?例えば「毎年売上を2倍にしていく」とか「毎年120%の成長を続ける」とか、それは何によって規定されるのでしょうか?
一つ目は株主の意向です。上場企業であれば「同業他社と比べて、どれくらいの成長が見込めるか?」ということが一つの投資判断になります。
一般的に言って、成熟産業であっても上場企業には成長が求められます。売上・利益をできれば年間110%ペースで成長させていきたい、ということになるでしょう。
これは逆に言うと、もし就職先として上場企業を選ぶ場合には「毎年110%前後の成長が、当然求められる」という職場環境を選ぶ、ということでもあります。「うちの業界なんて、成熟してて110%アップなんて無理だよ」という発想はしてはいけない、というのが「上場企業に就職する」ということでもあったりします。
非上場企業でも株主の意向はあります。一人株主であれば、その株主が「この会社は成長しなくていい。毎年黒字を出せればそれでいい」と言えば、そういった成長スピードになってきます。
株主の意向は、組織の成長スピードに大きく影響します。
スピード感を左右する要素は?
では、株主が「この成長スピードで」と思ったら、それは確実に実現されるのでしょうか。それはもちろん違います。成長市場に乗っかっていれば、速い成長スピードになるでしょうし、成熟市場であれば成長スピードは鈍化していくでしょう。これはごく当たり前のことです。
NETFLIXの会員数の伸びはものすごいスピードですが、今後世界の会員数が20億人や30億人となったらさすがに“成長スピード”は鈍化せざるを得ないでしょう。市場占有率といった要素が、成長スピードの制約になるのは間違いありません。
実際に様々な会社組織に携わっていると「社員の熱量」という要因が、非常に大きな影響を及ぼしていると感じます。
例えば、ある営業会社では、社長は「毎年、1.5倍成長をしていきたい」と考えていました。そして、2~3年、その数字を実際に達成してきていました。年商2億円が3億円になり、次は4.5億円になり・・・というような成長スピードです。この時社員数は5名で、単純計算で一人当たり売上高が4000万円→6000万円→9000万円と伸びていったわけです。
社長はこの勢いで成長を続けていきたいのですが、ここで問題が起こります。
社員の年収も800万円→1200万円→1800万円と右肩上がりだったのですが、社員たちは「もうこれ以上数字をおっかけるのはしんどいです」となってきます。「年収1800万円で十分です。5名で4.5億の売上を継続するんじゃだめですか?」と。
会社の成長を止めたくない社長は、既存社員に見切りをつけて新しい人材を採用していきます。その結果、売上高が4.5億円から5億円になり、6億円になり・・・とはなっていきましたが「1.5倍成長を続ける」ということはできなくなってしまいました。
このような現象に会う会社は非常に多いのです。
市場にも余地がある、経営者にも情熱がある、それでも思っているような成長スピードにならないということはあります。社員の熱量というものは、どうしても無視できない要素であろうと思います。
ちなみに、市場占有率が上限値に達していない場合は、「社員数」を増やしていくことで、売上の成長スピードをあげることはできます。業種にもよりますが、分かりやすく営業会社などであれば「営業社員を増やす」ことによって売上を拡大していくことができるでしょう。
しかし「みんなが1.5倍成長を大切にしている会社」にはなっていません。
それを大事に思っているのは社長だけで、多くの社員たちは「現状を維持できることが大事」と考えていたりします。
この「温度差」を受け入れて、粛々と規模を拡大していく経営者もいますし、「こういう温度差は楽しくない」として自分の作った会社を売却してまた起業をする経営者もいますし、「なんで温度差が埋まらないんだ!」と悩み続けている経営者もいます。

オーガニックな成長を大事にする企業は成長しないのか?
非上場企業においては数字目標を設定していない、というような会社も結構あります。しかし、そういう会社成長していないかというと、そんなこともありません。
これはイメージですが昨対比の売上として、110%→102%→105%→99%→113%みたいな感じで成長していきます。
無理せず、だけどさぼることもなく仕事をしていく。別の言い方をすると、残業はしないけど、時間内でめちゃくちゃ集中して仕事をする。そういうオーガニックな仕事の仕方によって、オーガニックな成長を遂げるわけです。年商で表すと、55億円→56億円→59億円→58億円→66億円です。5年間で1.2倍成長しているのですから、好業績と言ってよいと思います。
「今年の売上が高くなった」かどうかは、結果論でしかないことがあります。特に商品開発や研究開発が必須の業種においては、「今年売上高が1.5倍になった」のは「3年前から商品開発していたものが遂に芽が出た」みたいな時間差があるのは普通のことだからです。
ちなみにこれは経験上ですが「毎年1.1倍の成長」は一つの基準ラインな感じがしています。年で1.5倍とかの成長は大変です。「売上は維持でいい」だと、やっぱり維持も難しくなっていきます。「一生懸命いい仕事をしていこう」で、結果として年平均110%成長だった、みたいなところです。
成長スピードを考える上で大事なことは
成長スピードは、一つには「経営者の経営哲学」によって異なるでしょう。「とにかく成長スピードが速いことこそが正義」なのか、「スピードはそれほど気にしない」なのか、それによってマネジメントの在り方は全く違ってきます。
上場企業で「当社の毎年の成長率は必ず●%を達成していかなければなりません」ということでも、またマネジメントのあり方は変わってくるでしょう。「社員に無理をさせる」ような成長スピードの設定だと、副作用(休職や離職、会計操作などの不祥事など)も覚悟しなければなりません。
様々な要因があっての「成長スピード」ですが、そもそも「自社にとって最適な成長スピードはどれくらいか?」「私たちは、成長スピードについてどのような共通認識を持っているか?」といったことを、検討したり、対話してみたりすることもとても価値のあることだろうと思います。
[Vo129. 2025/02/04配信号、執筆:石川英明]