Vol.127 令和最新版!これからの時代に求められるリーダーシップ

今回のご相談内容

これからの時代に、管理職に求められるリーダーシップとはどのようなものでしょうか。

トップダウン型もコーチング型も、限界を迎えているように思います。

石川からのご回答

これまでの王道:トップダウン型リーダーシップ

もともとはリーダーシップといえば、トップダウン型しか存在していなかったくらいの感じであったと思います。会社組織におけるリーダーシップですから、会社組織がヒエラルキー構造を持っている以上、「上の者が、下の者を従わせる」わけで、トップダウン型リーダーシップが基本となっていたことは頷けます。

トップダウン型リーダーシップは「これをやれ」と命令します。命令するのに必要な力の源泉は「ポジション」です。役職です。上司である私が言っているのだから、いいからこれをやれ、というわけです。

トップダウン型のよいところは、決定者が一人のためスピーディに意思決定ができることです。

しかし、トップダウン型の弊害やデメリットは多数あります。

命令に納得できない場合は、やらされ感を強く持つことになります。これをしなければいけない理由の説明を求めても、拒否されることもあります。理由を聞いても納得できないこともあります。反論をすると「評価者たる上司」の心証が悪くなり、自分の評価が下がりかねません。ですから、組織の中に思考停止や受身的姿勢が蔓延しやすくなります。

これらの構造的欠陥を持っているにも関わらず、トップダウン型リーダーシップにおいても卓越した成果を生み出すリーダーがいますが、その人たちは構造的結果を補って余りあるだけのカリスマ性を有しています。「あの人が言うことなら」「この人についていこう」そう言わせるだけのカリスマ性を有しているのです。

しかし、そのようなカリスマ性を例えば「すべての管理職が有している」などということはまずありません。

トップダウン型の限界から出てきた:コーチング型リーダーシップ

そして、前述のようなトップダウン型リーダーシップの構造的欠陥が浮き彫りになる中で、次に出てきたのが「コーチング型リーダーシップ」であったように思います。1997年にコーチ21、2000年にCTI Japanが設立されています。この頃が、日本におけるコーチングの黎明期であったと思います。

上司や管理職は「コーチング」をできる必要がある、という認知が徐々に広がっていったと思います。しかし、コーチングはもともとパーソナルコーチングを源流としており、パーソナルコーチングは、ヒエラルキー構造を持った会社組織の中では非常になじみにくいものでした。このことを深く考えずに導入が進んだため、混乱が多々起きたと考えていますが、この考察については別途書いたこともありますので、今回は割愛します。

参考;ビジネスで本当に使えるコーチングとは?
http://co-ducation.com/consulting-coaching/

いずれにせよ、上司や管理職はコーチングをできる必要がある、というように随分となってきたように思います。

トップダウン型は「これをやれ」「こういうやり方でやれ」と命令したり、指示をしたりすることが基本ですが、コーチング型では「どうしたらいいと思う?」「どうやったらうまくいくと思う?」と問いかけることが中心になります。それによって部下自身が自分で考えて、自分で判断する力が高まっていく、という考えです。

ところが当然ながら、上司が「どうしたらいいと思う?」と問いかけた際に、部下が「こうしたらいいと思います」と回答した内容が、上司の考えと食い違うことはあります。その時に、上司はどうしたらいいのでしょう?

この根本的な問題に回答が示されないまま「上司もコーチングスキルを持っているべき」という考えが随分と広がったように思います。それも、むしろ部下の側にその認知が広がっていて「自分の上司はコーチングがわかってない」「自分の上司はコーチングができていない」というような認知が広がっていったように思います。

そうして、コーチング型リーダーシップもまた、限界を迎えていたように思います。

そして、そこにさらに「心理的安全性」というキーワードが流通するようになりました。2012年にGoogleが「プロジェクトアリストテレス」の成果を発表したことで、一気に認知が広まりました。社員が安心して仕事に参加できる、社員が安心して議論に参加できる、そのようなことが重要であるという認知が強くなりました。

これまた大流行するキーワードでよく起こるように、心理的安全性についても表層的な理解ばかりがどんどん広がっていった面はあると思います。とはいえ、確実にキーワードとしては広まりました。

心理的安全性が低いのは、上司と部下、どちらのほうでしょうか?

それは被評価者たる部下です。

部下は「上司に嫌われてはいけない」と思って、意見を飲み込むことがあります。このことがあるために「心理的安全性」が正義となってくると、上司のほうが「自分の意見を言えなくなる」ということが、起こるようになってきました。トップダウン型リーダーシップが当たり前の時代には考えられないことです。

もはや、管理職は、どうしたらいいか分かりません。自分の意見を言えば「それでは部下の心理的安全性が担保されない」と言われてしまう。しかし、一方で部下の成果や成長については責任を問われる

果たして、どうしたらいいのでしょうか?

出典:ぱくたそ

これからの時代に求められるのは:対話型リーダーシップ

結論を言うと、現在においては「対話型リーダーシップ」が必要です。

部下に一方的に命令するのではない、部下に問いかけるだけでもない、部下と対話するリーダーシップが求められているのです。これは、成人発達理論における「変容型知性」とも呼応するところです。

「みんなでしっかりと話し合って決めましょう」
「私はこれがいいと思っていますが、みんなの意見はどうでしょうか?」

これをフラットに遂行できる姿勢・スキルを持っているのが対話型リーダーシップです。

対話型リーダーシップの難点は「対話する時間がかかる」ということです。この効率とスピード重視のビジネス界においては、これは非常に重たい難点です。

一方で、対話型リーダーシップが素晴らしく機能すれば、リーダーとメンバーは「恐怖と支配」「命令とやらされ感」などの関係を超えて、ゴールに向かって高い協働性を発揮していくことができるようになります。

また「対話する時間コスト」は、積み重ねていくほどに効果や価値を実感できるため、そのうちに「対話する時間投資」という認知が強くなっていきます。表層的な1時間の議論を100回行うよりも、深い対話を10時間行うと、あと90回の議論が本質的かつ効果的になることが実感されます。

対話型リーダーシップにおいては「部下の心理的安全性に配慮しすぎるがあまり、上司のほうが犠牲になる」ということもありません。チームが質の高い対話をすることで、質の高い意思決定ができ、質の高い協働性を発揮してビジネスを進めていくことができます。

対話型リーダーシップに必要なこと

対話型リーダーシップを発揮していく上で必要なことは「対話する姿勢」です。当たり前のことを言うようですが、これが本質的に最も重要となります。

では「対話する姿勢」とはどういうものでしょうか?

それは言い換えると「変化する可能性に開かれている」ということです。

自分はA案がいいと思っていて、そのA案を押し通そう、A案がいいと説得しようという姿勢でいたら、それはトップダウン型リーダーシップだということになります。一方で、自分の案は関係ない。部下がB案がいいと思うなら、B案でやればいい、という感じだと、コーチング型リーダーシップ(と言うか、放置型リーダーシップ)ということになります。

自分は現時点ではA案がいいと思っている、部下たちからはB案やC案が出てくるかもしれない。対話した結果、B案が採用されるかもしれないし、X案が生まれてくるかもしれない。それは分からないが、真摯に対話をしよう。

この姿勢が対話型リーダーシップということです。

実際には、上司がいいと思っている「A案」が採用されることが多いのです。やはり丁寧に対話をしてみると、様々な変数を見ていて、総合的に優れた判断をしているのが上司である確率は高いのです。

対話型リーダーシップを発揮していくと

「ああ、なるほど、だからA案なんですね」
「自分が思っていたB案だと、こことここが抜けてたのがよくわかりました」
「ぜひA案で行きましょう」

というようなことになっていきます。理解、成長、学習、納得、共感といったものが生まれてきます。

時には、上司の出したA案の穴があぶりだされることもあります。

「危ない危ない、A案は確かにこのリスクを見逃していた」

そこから、A’案に修正されたり、B案が採用されたりすることにもなります。上司自身も、理解、成長、学習、納得、共感をしていくことがあります。素晴らしいことです。

対話型リーダーシップにおいては異論・反論は「意思決定の質を高めるために大切なもの」で、ウェルカムです。上司に対して反論をしたことによって評価が下がる、などということはありえません。部下からの反論が稚拙なことはあり得ますが、その稚拙さを指摘することによって部下の学習・成長が促されることはあります。

ただ何をもってして「稚拙」と判断するかは、非常に難しい問題で、「それを稚拙と判断する価値観」そのものに対して、部下が異論を唱えてくるということはありえます。これをしっかりと受け止めることこそが変容型知性の本質と言えますが、これはについてはやや難解でもあるため、考察は今後記述していきたいと思います。

対話型リーダーシップを発揮していくことで、トップダウン型リーダーシップの限界も、コーチング型リーダーシップの限界も超えていくことができます。対話型リーダーシップは、組織の集合知、叡智を引き出していくことができます。

 

[Vo127. 2024/09/03配信号、執筆:石川英明]