Vol.57 社員の創造性やWell-Being(幸福・働きがい)を高めるために【個性とセルフマネジメント編】

今回のご相談内容

これからの時代、社員が創造性を発揮できていない企業は、どんどんと競争力が減衰していくことになるように考えています。人間の創造性が発揮されていないものは、AIやロボットなどにどんどん代替されていってしまうからです。

同時に「社会的な労働力不足」という観点から考えると、社員のWell-Being(QOL・幸福度・満足感・働きがいなど)が低いと、人不足に陥っていくことにもなるように考えます。同じような仕事、同じような給与水準だとしたら、働きがいや充実度といったものの水準が高い企業へ、人が惹かれていくので、採用が上手くいかず、離職につながる要因となることは容易に想像できます。

企業が生き残っていくためには、社員の創造性や「働きがい」「well-being」といった幸福度を高めるような経営マネジメントが不可欠であると考えますが、いったいどのように高めたらよいのでしょうか?

        

石川からのご回答

創造性やWell-Being(幸福・働きがい)といったもの高めるのには、共通する要素が多いと考えています。重要な要素としては以下が挙げられます。


透明性

生成された目標

対話とガイドライン

個性とセルフマネジメント

アジャイル

前回は対話とガイドラインについて書きましたが、今回は「個性とセルフマネジメント」についてお伝えしたいと思います。
   

“個性を活かす”ことと評価制度の弊害

これまでの組織マネジメントにおいては「一定の評価項目に沿って、対象社員を相対評価する」というすることが多かったかと思います。

例えば、評価項目が10項目あって、100点満点中、社員Aは90点、社員Bは75点・・・というような点数付け(Rating)をしてきました。

評価項目が一定の10項目であるということは、評価の平等性を高めるためには重要であったかと思いますが、個々人の個性を生かすという意味では、優れた制度とは言えません。

一芸に秀でたスペシャリストのような存在が、それぞれにチームワークを発揮して、相乗効果を生み出していく・・・というようなものではなく、定められた仕事を、平均点できっちりできる。駒のように動きが予測出来て、計画通り仕事を遂行できる。そういった人材を(暗黙的にでも)求めてきた、といったマネジメントであったと言っていいと思います。

人間として「自分の個性を無視されている」と感じる環境と「自分の個性が役に立っている」と感じられる環境とで、どちらのほうがWell-Beingが高いかは言わずもがなです。
   

    

ギャラップ社の提供しているStrength Finderというツールがあります。かなり日本のビジネス界でも浸透してきているので、ご利用されている方も多いかと思います。

Strengthの調査を行うと、見事に社員のStrengthが全然違うものです。この一人一人のStrengthという能力、才能、つまり会社にとっての資産を生かさない手はありません。
   

例えば「戦略性」と「活発性」というStrengthがあります。

ざっくり言うと、前者はきっちりと事前に段取りを汲むことに才能があり、後者はまず飛び込んで、そこから学習し修正していくことに才能があります。

もし評価項目に「事前にきっちり段取りをすること」という評価項目があったとしたら、戦略性の人材は高評価を得やすいでしょうし、活発性の人材はダメ社員という評価になっていくことでしょう。しかし、活発性の人材が最も創造的に仕事ができるのは「まず飛び込む」というやり方のパターンの時なわけです。
   

   

社員に「やり方の統一感」を求めるのであれば、金太郎飴的な評価制度は有効ですが、創造性の発揮や卓越した成果を出すことを求めるのであれば、弊害が大きいことになります。

どんな仕事に対して情熱を持つのか、どんな仕事の進め方が最も創造性が発揮されるのか、それにはかなりの個性があります。
   

目標と役割分担について対話する

「しかし、一人一人の個性を踏まえて管理するとなると、これはかなり大変だぞ」というように思われるかもしれません。実際、「管理」を一人一人の個性を踏まえながらやっていくというのはなかなか大変です。

そういったことを自然とやれてしまうStrengthとして「個別化」というものがありますが、それこそすべての管理職がそういった個性を持っているわけでもありません。

そこで、発想の転換をしてみます。

つまり「上司が部下を管理しなければならない」という発想であると大変なわけですから「部下を管理する必要はない」と発想してみるわけです。

では、誰も管理しないでどうするのか。

それは、自分で自分のことを管理するのです。大人ですから、他人から指示されたり、管理されたりしなくても、ちゃんと仕事を遂行していくことができます。セルフマネジメントをする、ということです。
   

ある意味では、今のマネジメントは、社員を子供扱いしています。

管理しなければ、飴と鞭を使わなければ、仕事をしないだろう、というわけです。宿題しろよ、勉強しろよ、夜更かしするなよと口うるさく大人が子供に言うことと似たようなところがあります。これは「子供だから子供扱いする」のか、「子供扱いされるから、子供としてふるまう」のか、ニワトリが先かタマゴが先か難しいところです。

セルフマネジメントを中心にするということは、その会社は、社員を大人としてみているということでもあります。
   

出典:写真AC

    

セルフマネジメントの良いところは「本人が最も情熱を感じる領域の仕事をする」「本人が最も才能を発揮できるやり方で仕事をする」ということが、非常にしやすいということです。

わざわざ上司が苦労してそれを察して仕事を振るとか、やり方をサポートするという必要性がほとんどありません。セルフマネジメントは、人間の創造性が最も発揮しやすいマネジメント手法と言ってもよいと思います。(自分自身のStrengthなどを把握していない、必要な知識が不足しているなどの場合には、そのサポートを組織として提供することには大きな価値があります)

   

但し、セルフマネジメントが機能するうえで重要な要素が2点あります。

1.組織のビジョンや目標に、エンゲージされている

それはここまで既に触れてきたことに含まれますが、一つは「組織のビジョンや目標に、エンゲージされている」ということです。

例えば会社の目標として「売上50億円を達成するぞ!」というものがあって「そうだ、それを達成したい!達成したら素晴らしいことがある!」と心から思えている状態であるということがエンゲージされているということです。

内発的な目標を持っているからこそ、自分で自分をマネジメントして、目標に貢献していこうとできるわけです。

ですから「生成された目標」によって、組織の各メンバーが、目標としっかりとエンゲージされていることは、セルフマネジメントが機能するうえで重要な要素の一つになります。
   

2.透明性と対話

もう一つは、これも既に触れてきた「透明性」と「対話」です。

会社全体で、今期にやるべき仕事が100個あったとします。それを10人でやり終えようと頑張っている。

比喩的に言うと、例えばオフィスの壁に100枚の付箋紙が貼られています。そうすると「全部で100個の仕事があるんだな」ということが可視化されています。それぞれが「自分が情熱を感じる付箋紙を10枚ずつ選ぶ」といったようにしていったとします。

ドラフト会議のように、人気の仕事から付箋紙が取られていくかもしれません。そして、最後の10枚は「誰もそんなに情熱を感じない(けれど必要な)仕事」といった感じになるかもしれません。

セルフマネジメントではなく、上司による管理であれば、それらの仕事は上司が「君が担当だ」と命令することになるでしょう。しかし、セルフマネジメントでは、それをやってくれる上司がいません。
  

そこでこのドラフト会議のような「透明性」そして「対話」が必要となります。

セルフマネジメントに慣れている組織であれば、最後の人気のない10枚の仕事も、一人一人納得したうえですっと付箋紙を取っていきます。

場合によっては「これは来年に回してもいいんじゃないのか?」「どうしてもこれやりたくないから、こっちの付箋紙と交換して」などといった対話が始まる、ということもあるでしょう。

上司が差配する機能を、透明性と対話によって機能を担うことできます。

こうしてセルフマネジメントが成立する条件を整えると、社員がそれぞれの個性を発揮しながら仕事をしていくということがぐっとしやすくなります。

そして、一人一人が個性を思い切り発揮して仕事をしていく組織は、もちろん社員の創造性も高く、Well-Beingも高い組織にもなっていくわけです。

    

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.57 2020/11/17配信号、執筆:石川英明]