Vol.54 社員の創造性やWell-Being(幸福・働きがい)を高めるために【透明性編】

今回のご相談内容

これからの時代、社員が創造性を発揮できていない企業は、どんどんと競争力が減衰していくことになるように考えています。人間の創造性が発揮されていないものは、AIやロボットなどにどんどん代替されていってしまうからです。

同時に「社会的な労働力不足」という観点から考えると、社員のWell-Being(QOL・幸福度・満足感・働きがいなど)が低いと、人不足に陥っていくことにもなるように考えます。同じような仕事、同じような給与水準だとしたら、働きがいや充実度といったものの水準が高い企業へ、人が惹かれていくので、採用が上手くいかず、離職につながる要因となることは容易に想像できます。

企業が生き残っていくためには、社員の創造性や「働きがい」「well-being」といった幸福度を高めるような経営マネジメントが不可欠であると考えますが、いったいどのように高めたらよいのでしょうか?

        

石川からのご回答

創造性やWell-Being(幸福・働きがい)といったもの高めるのには、共通する要素が多いと考えています。重要な要素としては以下が挙げられます。


透明性

生成された目標

対話とガイドライン

個性とセルフマネジメント

アジャイル

今回はまず透明性についてお伝えしたいと思います。
   

○○が人の満足度や前向きさをむしばんでいく

透明性というのは、情報開示、情報共有といったことになります。個々人がしっかりと責任を持って判断するという場合に情報がオープンになっていて、情報にアクセスできるということは、土台となるものです。

例えば「どのパソコンを買おうか?」と考えた際に、機能や価格などの情報がオープンになっているからこそ「そこから自分で選んで納得して買う」ということができます。

これが、あるパソコンは機能が隠されていたり、あるパソコンは中古であることが隠されていたり、あるパソコンは価格が隠されていたりする・・・ということだと、自信をもって判断する、ということは非常に難しくなってきます。
   

ブラックボックスというのは不安や疑心暗鬼を生むものです。

例えば、初めてのお寿司屋さんに入って、メニューに金額が書いてない。会計するまでいくらかかっているのか分からない。そんな状態であれば「いくらになっちゃうんだろう?」という不安ばかりがよぎって、肝心のお寿司の味を楽しむどころじゃない、みたいなことになることはあるだろうと思います。

政治家のお金の流れで「怪しい」ものがあると、市民は疑心暗鬼になったりしますね。「なんか、きっと悪いことに使っているに違いない」みたいに妄想が膨らんだりします。

そして説明を求めても「適切に使いました。違法なものはありません」といった抽象的な説明しかされないと「ほら、説明できない。悪いことに使ったに違いない」みたいに妄想を、確信にさせてしまうようなところがあります。

不安や、不信感というものは、それだけで幸福度を低下させます。

「市民が一生懸命働いているのに、政治家は私利私欲に走って、やってらんないよ」みたいに思えば、それだけで、納得感、前向きさ、幸福度といったことがむしばまれていってしまうのです。

これは会社にも言えることです。会社の中にブラックボックスが多いと、それだけ不安や不信感が出てきます。「この売上はどう使われるんだろう?」「あの利益はどこにいっちゃったんだろう?」「誰がコストを使ってるんだ??」などのように、”分からない”状態にあることで、不安や不信感が高まります。

不安や不信感が高い組織で働いていると、「どこかに犯人がいる」というような疑心暗鬼になったり、人間関係が悪化したり、会社への愛着心やエンゲージメントが低下したりします。そういった組織で働いている一人一人の幸福度を上げることは、なかなか難しいことです。

逆に言えば、透明性が高ければ高いほど、不安や疑心暗鬼を減らすことができますし、納得感や積極性、全体に対する責任感を育みやすくなります。

これは、「Well-Being」や「働きがい」「生きがい」といった働く上での幸福度に直結する内容です。
    

出典:写真AC

     

情報共有が「会社全体に対する責任感」を育む

透明性は、財務情報の公開ということだけに限りません。「隣の部署が、どんなことを頑張っていて、どんな苦労があるのか」といった情報についても、透明性が求められます。

隣の部署の仕事ぶりが全くブラックボックスになっていれば「気を使う」「配慮する」「労わる」といったことは非常に難しくなります。
   

ジョブローテーションは、全社的な透明性を高めるために有効な手段の一つです。

営業の仕事だけをするのではなく、経理の仕事も、人事の仕事も、調達の仕事もしてみると、それぞれの部署の大変さや、苦労がよく分かります。いざ営業の部署で仕事をしていても「隣の部署が何をやっているのか全然分からない」ということになりません。

ジョブローテーションだけが解決策ではありませんが、こういった職種や部署の情報の透明性ということも、重要なことです。
   

全体の情報が共有されていることで、「全体にとって最適なことは何か?」を初めて考えられるのです。「もっと会社全体のことを考えて動け」とどれほど命令したとしても、その考える前提となる情報がブラックボックスであれば、考えようもないわけです。

全体に対する責任感が自然と生じるという意味でも、透明性はとても重要になります。

「全体に対する責任感が生じる」ということは、例えばある部署が苦しくて、赤字になったみたいなときに「なにやってんだよ、足引っ張りやがって」とならない、ということです。「あそこも頑張ってんだ。今はこっちの部署で支えるべき時だ」というような認識をしやすくなります。

「なにやってんだよ、足引っ張りやがって」

「あそこも頑張ってんだ。今はこっちの部署で支えるべき時だ」

と思うのと、どちらの方が、社員の幸福度が高いでしょうか?どちらの社員の方が創造性を発揮していこうとするでしょうか?

仕事に対する積極性や組織全体に対する責任感といったものが自然と醸成されていくには、こういった【透明性】が非常に重要になるわけです。
    

不安や不満を抱えた状態は人の○○○を低下させる

また、不安や不満を抱えたネガティブな感情状態にあると、人の創造性も低下していきます。

「ネガティブ感情は、人の思考ー行為レパートリー(注意、認知、思考、行動などの可塑性、創造性、柔軟性など、あるいは身体的資源、社会的資源、心理的資源などの個人的資源)を狭くする」

さらには、人の健康へもマイナスの影響をもたらします。

「ネガティブ感情の生起は、血圧、脈拍などの自律神経系反応の亢進をもたらし、その持続は心身の健康に対して悪影響を持つ」

※ 参考:『ポジティブ心理学』ナカニシヤ出版

    

人の創造性は、落ち着いた感情状態のもとに発揮されやすくなります。

ときに「追い込まれたときにこそすごいアイデアが出てくるんだ」というような意見を目にすることがあります。確かにそのようなケースもあるかもしれませんが、これはかなり一面的な意見と言ってよいと思います。
   

スポーツ選手が、よいパフォーマンスを出すのには「無気力、油断」といった状態では難しいですが「過度の緊張、圧力」といったことでも難しく、一流のスポーツ選手は、普通の人なら過緊張になりそうなところを「ほどよい緊張感、最高の集中力」といった状態にすることで、自分自身の創造性、パフォーマンスを最高のものにしているわけです。

なんでもかんでもプレッシャーをかければよいというものではなく、周囲からの過剰なプレッシャーによってパフォーマンスを低下させてしまったケースも調べればやまほど出てくるはずです。
   

不安や不信感などが過度に強いようなネガティブな感情状態は「人間の創造性を高めるのに最適な状況」とは言えないものです。

ベースの安心感(挑戦して失敗しても、クビになるわけじゃないなど)があるうえで、内発的な好奇心や情熱(「これをやってみたい!」「これを成し遂げたい!」という前向きな気持ち)があったときに、創造性は発揮されやすくなると考えられます。

組織の透明性を高めることで、不安感を取り除く。そのことによって社員が創造性を発揮する土台を整えることができます。
   

情報の秘匿性や占有が競争要因として弱くなる時代へ

これまで企業は「情報の秘匿性」が競争要因として大きく働いていました。それは「一部の社員のみ情報を共有し、そこで練られた戦略を、命令して実行させる」というモデルの中では機能したものです。

情報の秘匿性が競争要因として大きかった状況下では「末端社員まで情報が知れ渡っている」というのは、情報漏洩のリスクの方が大きいと判断され、重要な情報を全社員で共有する、というようなことは行われてきませんでした。

しかし「全社員が、一人残らず、最大限創造性を発揮しながら仕事をしていく」ことが求められる環境下においては、情報の秘匿や占有といったことはむしろ、マイナスの作用が大きくなってきています。

個々人が責任感をもって、かつ機敏に判断するには、判断するのに足る情報がなければ、適切な判断もできなければ、責任感をもって判断することもできないからです。

【透明性を高める】

ということが、マネジメントにおいて非常に重要な要素になってきていると言えます。むしろこれから透明性の高さは、土台となる前提条件となってくると言っても過言ではないだろうと思います。 

    

いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。

[Vol.54 2020/10/27配信号、執筆:石川英明]