Vol.60 社員の主体性や自発性を引き出す目標設定とは
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今回のご相談内容
フロー体験理論なども勉強し、社員が自分の能力を最大限に発揮し、自発的・主体的に働くような組織にしていくためには、まずはこれを成し遂げたいと心から思えるような社員1人1人の目標設定が重要だと思いました。
現在評価制度を導入していますが、社員の主体性や積極性を高める目標設定の機会としては、正直あまり機能しておらず、形骸化してしまっています。
「本質的にいい仕事をしたい」「お客様のために、会社のために最善を尽くしたい」という社員の想いを引き出せるような目標設定ができたらと思いますが、どのように考えていけばよいでしょうか。
石川からのご回答
弊社のコンテンツもご覧いただき、誠にありがとうございます。
相談者さまの仰るとおり、自発的・主体的に働く社員を増やすためには、社員1人1人の「仕事に対する目的や目標」が欠かせません。そして仰るとおり、目標が設定されたとき、その目標を「達成しよう!」と思えることが重要です。
目標が設定されていても
「そんな目標どうでもいいや」
「覚えてもない」
「どうせ達成できないから気にしてない」
「その目標を達成する意味があるの?」
などと思われている状態では、折角時間をかけて目標設定を行ったとしても、本質的にはあまり意味がないと言っていいと思います。
部下にその目標を「達成しよう!」と思えるようにすることが管理職や上司などマネジメント層には求められますが、この時のアプローチは大きく二つの考え方がありますので、今回はまずその部分から解説したいと思います。
外発的動機付けによるアプローチは社員が「損得勘定」でしか動かなくなる要因に
一つは、外発的に動機づけるという考え方です。アメとムチを使って「その目標を達成するといいことがある」「その目標を達成しないとデメリットがある」という風にするわけです。
そしてもう一つは、内発的な動機付けるという考え方です。こちらは、本人が、自らの意志で「達成したい!」と思うものが、目標として設定されるということになります。
前者を制度化したものが、人事評価制度です。
「この5つの目標を達成してください」
「5つとも達成出来たら、昇給します(アメ)」
「5つとも未達の場合は、減給もあります(ムチ)」
そのようにして人を動かそうとするものです。
但し「モチベーション3.0」などに詳述されているように、外的な動機付けで人を動かすと、その人の純粋なやる気、情熱、創造性といったものは低下していきます。
社員は評価されることだけを効率よくやろうという発想にもなりますし、「今期はもうA評価確定だから、この成果は来期に回そう」など、損得勘定で動いていくことになります。
外的な動機付けというものが、そもそも損得勘定を組織の駆動力として採用するということでもあります。
より良い仕事をしたいとか、本質的にいい仕事をしたいとか、お客様のために最善を尽くしたい、というような駆動力ではなく「これをやると、自分が得をするか?損をするか?」ということで動いていくことになります。
この損得勘定という駆動力は、創造性といったものとすこぶる相性が悪いものです。「すっごい良いアイデアが思いついた!」というようなときでも「でも、どうせ給料変わらないから、やらないでいいや」みたいになってしまう弊害があるわけです。
社員一人一人の内発的動機をフル活用した経営
そうなったときに「内発的動機づけ」という発想が出てきます。動機付け、という言葉は使うものの「外から動機”づける”」ものではありません。本人の内側から湧いてくる動機に駆動されるので「内発的な動機」と呼ぶべきかもしれません。
これは近年「やりがい搾取」などと呼ばれて批判のまとになることもあります。しかし、この批判に安易に与することはできません。
もちろん「やりがいはあるけれど、不当に劣悪な労働環境である」などということは見直すべきでしょうが、「仕事にやりがいがある」ということ自体が悪いわけはもちろんありません。
内発的な動機によって、組織が駆動していくためには、個々人の意志や、夢や、やりたいことなどを大切に扱う必要があります。
トップダウン的に一方的にノルマを課すのではなく「私はなにを実現したいのか?」と一人ひとりが考えたり、感じたりするスペース(時間的余裕など)を提供することが、マネジメントとしては必要になります。
そしてこの内発的動機が上手く機能した場合、自分が実現したいことに向かって動いていくことになるので、「損だからやらない」ということもなく、自身の創造性を発揮しながら仕事に取り組んでいくことになります。
【Human Centered(ヒューマンセンタード)経営】的な考え方としては、人間の、一人一人のこのような「内発的動機」という最大の資産をフル活用する経営が、組織の創造的な仕事を形成していくと考えます。
しかし、いざ社員の内発的動機づけを重視してやろうとしたとき、マネジメントにおいては、少々困ったことも生じます。
それは「コントロール」ができないということです。
どんなことを実現したいのか、どんなペースで実現したいのか、それを個々人に委ねたときに、個々人の創造性は最大限発揮されるかもしれませんが、その「実現したいこと」や「実現したいペース」は、管理職や役員陣の「実現してほしいこと」や「実現してほしいペース」と乖離がある可能性があります。
「社員の自主性に任せる=会社としてコントロールできない」問題に対する解決策
内発的動機型の目標設定を推進したいが、「コントロール」ができない。この問題に対しては、大きく二つのアプローチがあります。
一つは、混合型のマネジメントを考えること、もう一つは、対話の文化を醸成することです。
1.混合型のマネジメントを考える
混合型のマネジメントは唯一の型があるわけではなく様々な組み合わせがありえますが、例えば一つは「何をするかを選んでもらう」というような形がありえます。
完全に個人に自由をゆだねて「何を実現したいですか?」と考えてもらうのではなく「AとBとCという選択肢があるけれど、最も情熱を感じるのはどれか?」と選んでもらうというようなイメージです。
こうすることで、完全に個人の自由意志でというわけにはいかないけれど、マネジメント側の意向も含んだ形で、自己選択ができるというような状況を作ることが出来ます。
「内発的な動機」を中心に組織を形成すると、極論すれば「上司-部下」という関係はなくなってしまいます。しかし「ボトムアップ100%か、トップダウン100%か」のように極端でなければならないわけではありません。
むしろ「徐々に、ボトムアップの割合を増やしていく」というようなアプローチが現実的であるということの方が多いだろうと思われます。
2.対話の文化を醸成する
その「徐々に増やしていく」というような場合にも「対話の文化を醸成する」ということは役に立ちます。
役員/社員、上司/部下といった関係性において一方的なトップダウンのコミュニケーションではなく、双方向に対話するといった場が増えていくことで、個々人の内発性も徐々に高まっていく、ということがあります。
例えば会議の場が「上司の指示を受ける場」というところから「各人の意見を発表し合う場」であったり「議論中は上司/部下の立場関係なく、フラットに議論する場」というような場になってくる、ということも対話文化の醸成につながりますし、それが内発性が発露する割合の増加にもつながってきます。
このように対話文化を醸成することにより、制度ありきで変えていくのではなく「自然と」社員から内発的動機を引き出すことも可能です。
本当に自然と社員から内発的動機を引き出せるのか?というところについては、実際に社内で対話の時間を取り入れてみた企業の例なども参考にしていただけましたら幸いです。
実際に、ワークショップや研修後の変化をどう感じていらっしゃいますか?
(中略)一番変わったのは「問題意識を自然と持つようになった」みたいなところです。部として、まず売上・利益ということに対して、意識が180度変わりました。この先、事業部としてどうしていくのか、部下の人件費、会社の経費、そのためにはこれだけ稼がないと、という意識。このあたりは最初の半年間で続けた社内ワークショップの中で、意識が変化していったと思います。また、もともと職人気質で、そんなに多弁な方じゃなかった人たちから「こうしていこう」「こういうアイデアはどうだろう」という言葉が出たり、会議などでの発言自体も増えました。「忙しいからできないよね」というなこともなくなり、「できない理由を挙げる」みたいなことも、今は本当に全然ないですね。
中日映画社様 お客様の声より抜粋
今回の回答は、以上となります。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
[Vol.60 2020/12/08配信号、執筆:石川英明]