Vol.56 社員の創造性やWell-Being(幸福・働きがい)を高めるために【対話とガイドライン編】
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今回のご相談内容
これからの時代、社員が創造性を発揮できていない企業は、どんどんと競争力が減衰していくことになるように考えています。人間の創造性が発揮されていないものは、AIやロボットなどにどんどん代替されていってしまうからです。
同時に「社会的な労働力不足」という観点から考えると、社員のWell-Being(QOL・幸福度・満足感・働きがいなど)が低いと、人不足に陥っていくことにもなるように考えます。同じような仕事、同じような給与水準だとしたら、働きがいや充実度といったものの水準が高い企業へ、人が惹かれていくので、採用が上手くいかず、離職につながる要因となることは容易に想像できます。
企業が生き残っていくためには、社員の創造性や「働きがい」「well-being」といった幸福度を高めるような経営マネジメントが不可欠であると考えますが、いったいどのように高めたらよいのでしょうか?
石川からのご回答
創造性やWell-Being(幸福・働きがい)といったもの高めるのには、共通する要素が多いと考えています。重要な要素としては以下が挙げられます。
★透明性
前回は生成された目標について書きましたが、今回は「対話とガイドライン」についてお伝えしたいと思います。
社員の内発的な情熱を大切にする場合のカギは○○
前回、
このほかにも「一人一人の内発的な目標を重視する」となると、例えば営業をやりたい人が多くて、生産管理をやりたい人が少ない・・・となったら、その際に役割分担はどうするのか、それは内発的な目標を無視して、トップダウン的に役割を命じるのか・・・などといった問題が出てきますが、これについては次回「対話とガイドライン」というテーマでお伝えできればと思います。
といったことを書かせていただきました。
一人一人の内発的な目標を重視するとなると、それ以外にも、例えば「自社の売上を5年で10倍にしよう!」と燃える社員もいれば、「売上は維持でいい。顧客満足度を1.5倍にしよう!」と燃える社員もいる、ということはありえます。
ヒエラルキー構造のトップダウンの組織であれば、この方針のズレを収束させるのは「トップの決断」ということになります。
(そして、このトップ決断によって収束するという構造に慣れ親しんでいると、社員の側にも、受身的姿勢や、依存心、思考停止といったことが強化されていきます。)
しかし、内発性を大切にする場合は、組織として収束させる力は「対話」が持つことになります。トップの決断により収束するのではなく、対話により収束する、ということになります。
この「対話」というものは、「一人一人の創造性が発揮される組織」を形成する上での一つの鍵といえます。
組織としての目標を収束させていくのも対話は必要ですが、「この売上100万をどう給与原資として分けるか」といった、収益が発生した後の分配についても、対話が必要となります。これもトップダウンで決めないのであれば、収束させていくためには対話が必要になるわけです。
トップダウンで、分配ルールを決め、評価項目を決め、評価者が評価点を決め、それに沿って分配する、ということをすれば「対話コスト」はなくすことができます。
しかしそうするとどうしても「評価されることをしようとする」という意識状態になり「内発的な創造性を発揮する」という状態からは離れていってしまいます。評価者/被評価者という構造そのものがどうしても「内発的な創造性を生かす」のではなく「評価者の意向に沿って動く」という方向への力学を持つものだからです。
このためNo Ratingというキーワードなども出てきて、どういう分配方法がよいのか、各社が試行錯誤をしているのが現状と言えます。
目標と役割分担について対話する
まず、実際問題として「キレイにまとまった一つの目標」は必ずしも必要ありません。
「自社の売上を5年で10倍にしよう!」と燃える社員Aと、「売上は維持でいい。顧客満足度を1.5倍にしよう!」と燃える社員Bがいる、という場合に、それぞれ「売上10倍を目指す」ということと「売上維持を目指す」ということは、別々に持っていてもいいわけです。
必然的に、役割分担としては社員Aは「売上拡大・新規営業」といったことが自分の役割、ミッションということになるでしょうし、社員Bは「顧客満足度向上」ということが役割、ミッションということになるでしょう。
実際に私は、自律分散的な組織経営を10年弱していましたが、上記のようにそれぞれに持っている目標が違う状態でも、それほど問題はありませんでした。
どちらかというと問題となるのは役割分担の方です。
比喩的に言えば、例えばサッカーを11人でしていて「自分は点をたくさん取りたい」と、11人が言っていたらどうするのか。誰もキーパーをやりがっていないけれど、キーパーなしで試合に臨むのか?といった問題が出てきます。
トップダウンで行けば「お前がキーパーをやれ」以上、ですが、それでキーパーに指名された人間が頑張れるかは分かりません。
そうなると「誰もキーパーやりがらないから、10分交代でキーパーやる?」とか「試合ごとに持ち回りでやる?」とか「キーパーをやりたい!って人を募集する?」とか、そういったことを話し合わないといけません。
話し合うことは負荷のかかることではありますが、きっちりと納得のいく話し合いをすることができれば、納得感やモチベーション高くチームとして動いていくことができるでしょう。
例えば話し合った結果「1試合ごとに持ち回りでキーパーをやる」ということに決まったとします。これは「自分たちで作ったルール」です。しばらくはこれをチームルールとして運用していけばよいわけですが、状況が変わってくることがあります。
例えば「何度かキーパーをやってみてキーパーが楽しくなってきたから、毎回キーパーをやらせて欲しい」という人が出てきた。そうなったら、ルールに縛られずに、ルールを変更していくことも考えられるでしょう。
一人一人の内発性を重視するのであれば、どんなことに内発的動機を持つか変化がありえるということを前提においておく必要があります。
ルール、と呼ぶと固定的なイメージも強いので、個人的には「ガイドライン」と呼ぶことを推奨しています。基本線だけれども、違う対応をすることもあるし、見直しをされることもある、といった柔軟性を含んだニュアンスです。
ガイドラインを置くことで、対話の負荷を下げることができます。
「毎回、今日の試合はだれがキーパーをやるか」と試合前に対話をすることは負荷が大きすぎますが、ガイドラインとして「1試合ごとに交代してやる」というものがあれば、毎回は話し合わずにすみます。
しかし「絶対変えちゃいけないルール」ではないので、「1試合ごとに交代してやる」に違和感が出てきた場合には、見直す方向でまた対話をすることもできる、というようなものがガイドラインです。
対話の問題点とコツ
対話の問題点
「トップの決断」による組織としての収束力、求心力を「対話」に移行すると、多くのメリットがあります。自発性、責任感、創造性、納得感・・・様々な要素の向上が期待できます。
しかし一方で、対話には負荷があります。話し合う、ということはなかなか大変なことでもあるわけです。意見が違うものをすり合わせる、ということをしようとすることは、言うほど簡単なものでもありません。
実際に私が自律分散的経営に携わっていたときには「報酬の分配」についても対話をしたことがあります。100万円の売上があったときに、マーケティング担当者、営業担当者、コンサルティング担当者、それぞれがいくらもらうのが妥当か。これについても、トップダウンで決めるのではなく、当事者たちで話し合いをしたわけです。
感情面を含めて、なかなかしんどい対話になったことを想像していただけるでしょうか。
営業担当者は、1:7:2だと思っている。
マーケティング担当者は、5:2:3だと思っている。
そのすり合わせをするということは「あなたの仕事よりも私の仕事の方が価値がある。5倍も」みたいな意見を出し合わないといけないわけです。これはなかなかしんどい状況です。
しかしトップダウンで決めない以上、話し合って自分たちで合意していくしかありません。このしんどさというのは「対話という収束力、求心力を選ぶ」ときの明確なデメリットの一つと言ってよいだろうと思います。
なんでもゼロベースで話し合うと、対話のデメリットが大きくなるところがあります。
例えば「自社にとって適切な労働分配率はどれくらいか」を話し合ったとします。創業社長も、新入社員も、一人一人が自分の意見を出して、話し合って決める・・・ということをする場合、全くゼロベースで話し合っていくのは大変です。
対話のコツ
しかし「上場企業の労働分配率は平均56%」とか「東京都のデータが出ている企業の労働分配率の平均は40%」とか「飲食業の労働分配率の平均は25%」などと、ある程度たたき台となる数字があれば、これはぐっと話しやすくなります。
上記の「報酬の分配はどうするか?」について実際に話し合った際にも、収束していくとっかかりになった一つは「相場はどうなっているか?」でした。
他社はいくらくらいなのか、営業代行に外注したら相場はいくらくらいなのか、などの相場データをたたき台とできるようになって、ぐっと議論がしやすくなったのです。
客観的なデータや、相場と言ったものを用意できない対話のテーマもあり得ますが「会社」のなかにおける対話については、全く参考事例や比較事例がない、ということの方が稀です。
ゼロベースで対話するのではなく、そういった情報を用意したうえで対話を始める、ということはコツの一つとして大事にするとよいでしょう。
出典:写真AC
対話への興味がない人がいたら
目標を設定するとか、報酬分配ルールを検討するといったことは、社内/社外のことでいうと、社内のことです。「そんな社内政治、興味ないよ。お客さんに向かって仕事させてくれ」というタイプの人もいます。
そういう対話に興味がないというタイプはどうしたらよいでしょうか?
こういうケースについては、基本的には「無理に対話に参加させようとしてなくてよいですよ」ということをアドバイスさせていただくことがほとんどです。
しかし、対話に参加しないのであれば、他のメンバーが話し合って決めたことには従ってもらう必要があります。そうでないと、チームや組織として、運営が成り立たないからです。
もし営業担当者が「報酬分配の話し合いなんて興味ないよ。お客さんに向かって仕事するだけだから」といって、報酬分配の対話に参加しなかったとします。そして、営業担当者の分配割合は1%だ、というような結論になったとします。
その場合には、その結論を受け入れてもらわなければいけません。
もし、そのような結論が受け入れられないのであれば、話し合いに参加してもらう必要があります。
そういったことを明示しても「このテーマについてはどんな結論になっても構わないから、 話し合いには参加しない」ということももちろんあり得ます。「このテーマについてはどんな結論でもいいにはならないから、じゃー参加します」ということももちろんあり得ます。
大切なことは「話し合いに参加しないなら、出た結論には従う」という土台の共通認識を持つことです。
大変だったり、注意すべき点などもいくつもあるのが対話ですが、しかしこの対話による合意形成と言うのは、やはり非常に大きなメリットもあります。
まず、大きなメリットは、本当に対話による合意形成ができたときには「誰も、やらされ感で仕事をするということがない」という状態になります。
自分も当事者として責任をもって話し合った結果ですから、納得しています。主体性、責任感、といったことが損なわれることがありません。むしろ、合意された内容について主体性や責任感と言ったことを強く持つことになるでしょう。
またもう一つのメリットは「対話のプロセスを通して、視野が広がったり、成長できたりする」ということです。
丁寧に対話をしていくと、立場の違う人の感じ方を分かるようになったり、自分は考えていなかった観点での意見に触れる、といったことが起こっていきます。そのプロセスそのものが、大きな成長の要因になるわけです。
人材が成長する機会としても、対話のプロセスは、有用に機能します。
そして、質の高い対話のプロセスは、仲間意識、相互扶助の精神などを育むといった副次的な効果もあります。
「それぞれの意見に耳を傾ける」ことによって相手への理解が深まることもそうですし、「自分の意見に耳を傾けてもらった」ことによって関係性が育まれる、ということもあります。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。
[Vol.56 2020/11/10配信号、執筆:石川英明]